二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 この人、笑うとこんな顔になるのか。

 どきどきと胸が躍った。

 そのとき、貴子がケーキを盆にのせて、居間に入ってきた。

「なんだか、楽しそうね。夏瑛ちゃん、お皿並べてくれる?」

 すっと、涼しい風が通り抜けたように感じる。

 貴子があらわれるといつも、その場の空気が涼しげになる。

 靭也がケーキを切り分けるのに忙しい貴子の横顔を見つめている。

 もう、わたしとの話は終わりか。

 夏瑛はがっかりした。

 3人が帰ってから、夏瑛はもう一度ルドンの画集を開いた。

 でも頭に浮かんでくるのは空想の物語ではなく、靭也の言葉だ。

 何度も何度も頭の中でリピートする。

 こんなふうに他人を想うなんて

 夏瑛には初めてのことだった。

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