二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
「友だちとは、あまり遊ばないんだね」ある日、靭也が話しかけてきた。

「みんな、塾とか習い事でけっこう忙しいし。それにここにいるのが一番落ち着くんだ」

「夏瑛は、学校で……浮いてる?」靭也が真面目な顔をして、そう問いかけてきた。

「えっ?」

「いや、おれがそうだったから。中学生のころまで。周りと自分がものすごく違っているような気がして、学校にいると息がつまった。休み時間もひとりで絵ばっかり描いてた。そのころ、母親の知り合いのつてで、ここで絵を習うことになったんだ」


 (おれもそうだったから)

 その言葉が夏瑛の心の深いところで、美しい音を立てて転がっているようだった。

 やっぱりこの人はわたしを理解してくれる人だ。

 夏瑛はうれしくて叫びだしそうになるのを必死で抑えていた。

「はじめて会った日、おれが描いた絵を見せたら、先生が『すごい、すごい』って手放しでほめてくれたんだ。先生の言葉を聞いたとたん、湯に浸かってのんびり手足を伸ばしているような、そんな開放感を味わった。だから、先生と……それに貴子さんは、自分が思う通り生きたらいいって、おれに教えてくれた恩人なんだ」

 遠い目をして、靭也はそう言った。

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