二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 叔父は美大の教授、叔母は染色家という芸術家夫妻の家だったので、自分の家とも、友だちの家ともどこか違っていた。

 家具や調度ひとつとっても、ふたりの審美眼にかなったものしか置いていない。
 そして、本棚の大半は美しい画集や写真集が占めていた。

 夏瑛はここで過ごす時間がなにより好きだった。

 夏休みともなれば、登校日や友だちとの約束がある日をのぞいて、ほとんど毎日訪れ、絵を描いたり、画集を眺めたりして過ごした。

 夏瑛のお気に入りは、フランスの画家、オディロン・ルドンの画集。

 ページをめくると幻想的な世界が広がる。

 頭の中に、さまざまな空想が沸きあがってきて、何時間でも飽きることもなく眺めつづけることができた。

 叔母は小学6年生の夏瑛の憧れだった。

 美しい人で、叔母と言ってもまだ二十代後半。
 母とは15歳ほど離れている。
 だから夏瑛も「叔母さん」とは呼ばずに「貴子(きこ)さん」と名前で呼んでいる。

 芸術短大の工芸科を卒業して、現在も作品制作を続けており、二年に一度ほどグループ展を開いている。

 ストレートの黒髪を無造作に括り、レースをあしらったベージュのワンピースを着た姿は清楚だった。

 年齢だけではない。

 貴子のまとう雰囲気のすべてが、仕事に追われる母とは対照的だった。
 
 
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