二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
 居間のほうまで、貴子が焼いたケーキの美味しそうな匂いが漂ってきている。

 学生たちは叔父とともにソファーでくつろいでいる様子だった。

「こんにちは……」夏瑛は細い、消え入りそうな声であいさつした。

「えっ、先生のとこ、こんなに大きなお子さんいたんだっけ?」
 襟足をすっきりと刈りあげた短髪の男子学生が叔父に訊いた。

「いや、この子はぼくの姉さんの子だよ。近くに住んでてね。姉さんの仕事が忙しいもんだから、夏休みはうちに入りびたりなんだ」

 ゆるくパーマをかけた栗色の髪に、水色のカチューシャにした女の人が「お名前は?」と訊いてきた。

「夏瑛……です」

「かわいい名前。わたしは理恵です。よろしく」

「俺は幹彦(みきひこ)。ミッキーでいいよ。何年生?」

「小6、です」

「へえー。中学生かと思った。最近の小学生は発育いいんだね」

 無遠慮なまなざしでじろじろ眺められて、夏瑛はすこしムッとした。
 それが顔に出たのだろう。
 叔父が助け舟を出してくれた。

「おいおい、あんまりいじめないでくれよ。かわいい姪っ子なんだから」

「なあ、靭也(ゆきや)。お前も画集ばっかり眺めてないで、話に加われよ。相変わらず夢中になったら周りが見えないやつだな。空気読めよ、空気」

 幹彦が隣に座っていたもう一人に声をかけた。
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