二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
「うるせえなあ、俗人」

 目にかかっている前髪を掻きあげながら、靭也(ゆきや)と呼ばれた人が画集から顔をあげ、夏瑛(かえ)のほうに目を向けた。

 何だか、怖そう。ちょっと苦手なタイプ、と夏瑛は思った。

 男性にしては綺麗な顔立ちなので、よけいに近寄りがたさを感じた。
 小学生となんか、話したくなさそうだ。

「どうも」ぼそっと言うと、またすぐに画集に目を移した。

「こいつ、沢渡靭也【さわたりゆきや】。ちょっと変わってて。夢中になるといつもこんな感じで、入り込んじゃうんだよ」

「あっ、ルドン」靭也が見ていた画集は夏瑛のお気に入りだった。
 それで、つい声をかけてしまった。

 うわっ、こっち見た。
 どうしよう……

「さすが、先生の姪御さんだわ。小6で〝ルドン〟を知ってるなんて」理恵が言う。

「好きなの? これ」靭也も夏瑛に訊いた。

 あれ、ちゃんと話してくれるのか。
 夏瑛は意外に思った。

「見ていると、いろいろお話が浮かんできて、楽しいの」

「へえ、おれもそう。いつまで見てても飽きないよな。一緒に見る?」

 夏瑛はさらに驚いた。
 自分の気持ちに共感してくれたことに。
 しかも、大学生の男の人が。
 わかってくれるのは叔父夫婦だけと思い込んでいたから。

「うん」とためらいがちに答えると、靭也は中腰になり、左に詰め、夏瑛のすわるスペースを開けてくれた。
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