ビビってません! 〜あなたの笑顔は私の笑顔〜
第21話〜タレ
数時間後、百合は目覚める。少しすっきりした百合。テーブルの上には百合の花。
「あ…また寝ちゃったんだ…。…また?あれ…?航さんと話したような気が…。」
百合はスマホを見て確認する。
「やっぱり電話してる…。んー…。」
百合は航の言葉を思い出す。
「あ!」
百合は急いで出かける準備をする。その後、航にラインする。
準備できました
いつでも出られます
ラインの後、航は百合を迎えに来た。恥ずかしがっている百合に、航は手を広げる。その手に、百合はゆっくり重ねる。航はその百合の手を強く握った。
「目が真っ赤だな。どれだけ泣いたんだよ。」
航は笑う。
「笑わないでください!…嬉しかったんです…。」
「どこに行きたい。」
「え?」
「あんたの行きたいとこへ行こう。」
「あ…。」
「考えてなかったか?」
「…そんなにすぐには、考えられません…。」
百合の手は航の手の中。百合はぼーっとしながらも思い付く。
「あの…。」
「思いついたか?」
「私、航さんの知ってる所に行きたいです。」
「オレの?」
「はい。航さんの知ってる所で、航さんのこと知りたいです。」
「…オレの知ってるとこなんて、この辺の飲み屋くらいしかねぇぞ??」
百合の目は変わらない。
「しょうがねぇなぁ…。ただの居酒屋だぞ?」
「はい!」
ふたりは歩く。手をつなぎながら。百合の手は少しずつ素直になっていった。
突然、航の足が止まる。
「やっぱりこっちにしよう。」
歩いていた方向とは別の方向へ航は向いた。航の手の通り、付いて行く百合。
「…焼き鳥屋さん?」
「うまいんだ。一度食ってみろ。」
ふたりは店に入る。小さな古い店。年齢層が高い、男性率も高かった。
「今日は…あんたはアルコールは止めといたほうがいいかもしれないけど…ビールに合うんだ。許せ。」
航はビールと焼き鳥を注文した。運ばれてきた焼き鳥は、どこにでもありそうな焼き鳥だった。
「いただきます。」
百合は一口食べてみる。百合は驚いた。感動するほどのおいしさだった。
「…おいしい…。」
「だろ?」
航も食べ始める。
「こんなにおいしい焼き鳥、初めて食べた…。」
「秘伝のタレなんだってよ。昔はよく自慢してたな。あんたは好きなだけ食え。元気出るぞ。」
百合は食べながら考えていた。そして思い立つ。立ち上がる。
「おい、どうしたんだよ?」
航の言葉など聞こえず、百合は店主に向かった。カウンター越し。そして大きな声で言った。
「あの!秘伝のタレ、どうやったら作れますか?!」
航も店主も客まで驚いた。一同、動きが止まる。
「バカなことゆーんじゃねーよ、ねーちゃん。教える訳ねーだろ?」
「じゃあ、何を使えばこの味に近付けますか?!」
「しつこいねぇ。教えねーよ。」
「教えてください!作りたいんです!お願いします!」
「だから教えねーって言ってるだろ?」
「お願いします!お願いします!」
店主は呆れ、ため息をする。百合の根性を認めてくれた。
「大したもんだな、若いねーちゃんがよ。こんな客、初めてだ。しょーがねーから教えてやるよ。一度しか言わねぇからよーく聞けよ。」
「はい!」
百合は笑顔で返事をした。航は百合を見たまま、まだ驚いている。百合は熱心に店主の話を聞いていた。今までとは明らかに違う百合。そこには百合の成長した姿があった。
百合が航の元へ戻ってくる。難しい顔をし、何かぶつぶつ言いながら。
「あんた、どうしたんだよ?なんであんなこと…。」
「え?あ…、本当においしいし、自分でも作ってみたいと思ったし、…航さんに…食べて欲しいって思ったし…。」
「そりゃ嬉しいけど…。」
「けど…何ですか?」
「あんた、あの店長に会うの初めてだろ?」
「はい。それがどうかしたんですか?」
「あんたは、初めて会った人に、あんなに堂々と話し掛けた。」
百合は自分自身に驚く。それまでの百合にはありえなかった言動。自然と動いた体と口。航に言われるまで気付かなかった。
「自分じゃ気付いてなかったんだろ。オレはそっちのほうが嬉しいよ。」
百合の驚きは続く。航はビールを飲み、ジョッキを静かに置く。
「それに、よく笑うようになったな。」
百合の心配していたこと。
「私、笑えてますか?ちゃんと笑えてますか?」
「笑ってるよ。だからもっと笑え。」
安心し、ホッとする百合。嬉しくなった百合は笑う。
「それは、航さんのおかげです。」
航は決まったように言いかける。
「だからオレじゃねぇ、あんたの…。」
「航さんが私を笑顔にしてくれてるんです!航さんが私の笑顔を引き出してくれたんです!…友江先輩の結婚式の時、私の腕を引っ張ってくれたみたいに…。たまには、受け入れて欲しいです…。」
百合は少し拗ねた。その百合の表情はとても愛らしく、航は嬉しくなった。
「色々持ってるじゃねーか。もっと見せろ。」
「え?」
「笑った顔、泣いた顔、でかい声、真剣な顔、拗ねた顔…。もっとあるんだろうな。全部見せろ。オレに見せてくれよ。な?」
百合はどきっとし、手が止まる。嬉しさで息がつまる。言葉を選び考える前に、つまる息の中、百合は言った。
「航さんがいてくれたら、どんな顔だって…。でも、今はまだ、もっと笑いたいです。」
控え目に笑う百合。その表情もとても愛らしく、航は少しの間、百合に見惚れる。不器用な航は言葉がすぐに見つからない。そしてやっと言葉が出た。やさしく言う。
「ありがとな。」
「あ…また寝ちゃったんだ…。…また?あれ…?航さんと話したような気が…。」
百合はスマホを見て確認する。
「やっぱり電話してる…。んー…。」
百合は航の言葉を思い出す。
「あ!」
百合は急いで出かける準備をする。その後、航にラインする。
準備できました
いつでも出られます
ラインの後、航は百合を迎えに来た。恥ずかしがっている百合に、航は手を広げる。その手に、百合はゆっくり重ねる。航はその百合の手を強く握った。
「目が真っ赤だな。どれだけ泣いたんだよ。」
航は笑う。
「笑わないでください!…嬉しかったんです…。」
「どこに行きたい。」
「え?」
「あんたの行きたいとこへ行こう。」
「あ…。」
「考えてなかったか?」
「…そんなにすぐには、考えられません…。」
百合の手は航の手の中。百合はぼーっとしながらも思い付く。
「あの…。」
「思いついたか?」
「私、航さんの知ってる所に行きたいです。」
「オレの?」
「はい。航さんの知ってる所で、航さんのこと知りたいです。」
「…オレの知ってるとこなんて、この辺の飲み屋くらいしかねぇぞ??」
百合の目は変わらない。
「しょうがねぇなぁ…。ただの居酒屋だぞ?」
「はい!」
ふたりは歩く。手をつなぎながら。百合の手は少しずつ素直になっていった。
突然、航の足が止まる。
「やっぱりこっちにしよう。」
歩いていた方向とは別の方向へ航は向いた。航の手の通り、付いて行く百合。
「…焼き鳥屋さん?」
「うまいんだ。一度食ってみろ。」
ふたりは店に入る。小さな古い店。年齢層が高い、男性率も高かった。
「今日は…あんたはアルコールは止めといたほうがいいかもしれないけど…ビールに合うんだ。許せ。」
航はビールと焼き鳥を注文した。運ばれてきた焼き鳥は、どこにでもありそうな焼き鳥だった。
「いただきます。」
百合は一口食べてみる。百合は驚いた。感動するほどのおいしさだった。
「…おいしい…。」
「だろ?」
航も食べ始める。
「こんなにおいしい焼き鳥、初めて食べた…。」
「秘伝のタレなんだってよ。昔はよく自慢してたな。あんたは好きなだけ食え。元気出るぞ。」
百合は食べながら考えていた。そして思い立つ。立ち上がる。
「おい、どうしたんだよ?」
航の言葉など聞こえず、百合は店主に向かった。カウンター越し。そして大きな声で言った。
「あの!秘伝のタレ、どうやったら作れますか?!」
航も店主も客まで驚いた。一同、動きが止まる。
「バカなことゆーんじゃねーよ、ねーちゃん。教える訳ねーだろ?」
「じゃあ、何を使えばこの味に近付けますか?!」
「しつこいねぇ。教えねーよ。」
「教えてください!作りたいんです!お願いします!」
「だから教えねーって言ってるだろ?」
「お願いします!お願いします!」
店主は呆れ、ため息をする。百合の根性を認めてくれた。
「大したもんだな、若いねーちゃんがよ。こんな客、初めてだ。しょーがねーから教えてやるよ。一度しか言わねぇからよーく聞けよ。」
「はい!」
百合は笑顔で返事をした。航は百合を見たまま、まだ驚いている。百合は熱心に店主の話を聞いていた。今までとは明らかに違う百合。そこには百合の成長した姿があった。
百合が航の元へ戻ってくる。難しい顔をし、何かぶつぶつ言いながら。
「あんた、どうしたんだよ?なんであんなこと…。」
「え?あ…、本当においしいし、自分でも作ってみたいと思ったし、…航さんに…食べて欲しいって思ったし…。」
「そりゃ嬉しいけど…。」
「けど…何ですか?」
「あんた、あの店長に会うの初めてだろ?」
「はい。それがどうかしたんですか?」
「あんたは、初めて会った人に、あんなに堂々と話し掛けた。」
百合は自分自身に驚く。それまでの百合にはありえなかった言動。自然と動いた体と口。航に言われるまで気付かなかった。
「自分じゃ気付いてなかったんだろ。オレはそっちのほうが嬉しいよ。」
百合の驚きは続く。航はビールを飲み、ジョッキを静かに置く。
「それに、よく笑うようになったな。」
百合の心配していたこと。
「私、笑えてますか?ちゃんと笑えてますか?」
「笑ってるよ。だからもっと笑え。」
安心し、ホッとする百合。嬉しくなった百合は笑う。
「それは、航さんのおかげです。」
航は決まったように言いかける。
「だからオレじゃねぇ、あんたの…。」
「航さんが私を笑顔にしてくれてるんです!航さんが私の笑顔を引き出してくれたんです!…友江先輩の結婚式の時、私の腕を引っ張ってくれたみたいに…。たまには、受け入れて欲しいです…。」
百合は少し拗ねた。その百合の表情はとても愛らしく、航は嬉しくなった。
「色々持ってるじゃねーか。もっと見せろ。」
「え?」
「笑った顔、泣いた顔、でかい声、真剣な顔、拗ねた顔…。もっとあるんだろうな。全部見せろ。オレに見せてくれよ。な?」
百合はどきっとし、手が止まる。嬉しさで息がつまる。言葉を選び考える前に、つまる息の中、百合は言った。
「航さんがいてくれたら、どんな顔だって…。でも、今はまだ、もっと笑いたいです。」
控え目に笑う百合。その表情もとても愛らしく、航は少しの間、百合に見惚れる。不器用な航は言葉がすぐに見つからない。そしてやっと言葉が出た。やさしく言う。
「ありがとな。」