ビビってません! 〜あなたの笑顔は私の笑顔〜
第42話〜後輩とその恋人
翌朝。航は目覚める。寝起きが悪い朝。航はいつものようにスマホを探す。
見つけたスマホには、百合からのおはようのラインが入っていなかった。百合とラインのやりとりをするようになってから、毎日欠かさずあったもの。百合のおはようの一言が途切れた朝。航はただただ呆然としていた。
航のそばに百合がいない日々になった。百合の出した言葉の弾が、航の心を目掛けて飛んできたのは確かだった。その弾が、心の中にまだあることも。
朝のおはよう、夜のおやすみ。どちらの百合も航のスマホに現れなくなった。
朝のおはようが、なくなってから3日。航は仕事が終わる。空は薄暗い。外の古びたベンチに座り、航はひとりぼーっとする。手には百合の作ったスマホケース。無意識に、航は百合に電話をする。繋がらなかった。もう一度電話をする。繋がらない。航の意識がはっきりしてくる。もう一度、もう一度、何度電話をしても繋がらなかった。ふっと立ち上がる航。
航は墓地に来た。桜の木が3本が、寄り添うようにある墓地。ある家の墓の前に、航は座り込む。工場の社長、相原家の墓だった。そこには、航の一番の後輩とその恋人が眠っている。航は下を向き、小さな声。呟くように話しかける。
「おい…。こんな時、どうしたらいいんだ…。お前らならわかるんだろ?知ってるんだろ?」
雨が降ってくる。小さな雨粒。航を濡らす。
「お前らはいつも勝手で…。たまにはオレの言うこと聞いてくれよ…。」
航はうなだれる。
「…何か言ってくれよ…。」
しとしとと降る雨。じっくりと航を濡らしていく。空が泣いていた。
「お前らがいてくれたら…。」
航は思い出す。後輩の恋人、その先輩。それは友江。友江の存在を思い出す。
「友江さん…。」
航は走り出す。工場に向かって。そして工場のすぐ裏の、おんぼろのアパート。ある部屋に飛び込む。後輩の住んでいた、今は空き部屋の部屋。慌てて入った航。玄関の段差に足がこすれ、ジーンズの裾が切れてしまう。航はすぐに友江に電話をする。友江が話し出す前に、航が声を出した。
「友江さん!」
「どーしたのー??そんなに急いじゃって。何かあったの??」
「あいつ…あいつと…。」
「…あいつって、ユリね?」
「はい…。」
「何かあったの?」
「電話が…繋がらないんです…。」
「…いつから繋がらないの?」
「いつから…。…最後に会ったのが3日前で…さっき電話したら繋がらなくて…何度電話しても…。」
友江は航にそれ以上何も聞かず、少し考える。
「わかった、私も連絡してみる。」
「すみません…。」
「だから待っててちょうだい。私のことも、ユリのことも。」
「あいつ…?」
「信じて待っててあげてちょうだい。わかったわね?」
「はい…ありがとうございます…。」
航はため息をつき、目の前にある小さなテーブルにゆっくり腕を置いた。そしてそっとスマホを置く。頭を両手で抱え、何かの知らせを待っていた。
どれくらい時間が経ったのかわからない。外は真っ暗になっていた。航のスマホが鳴る。友江からの着信だった。
「友江さん!」
「航くん?やっぱり私もだめだった。何の反応もない。」
「そうですか…。」
「それでね、会社の後輩にも聞いてみたの。そしたらユリ、会社に来てないって。」
「え…?」
「しかも3日間、無断欠勤だそうよ。」
「3日も…。」
「さっき航くん、ユリと最後に会ったの3日前って言ったわよね?」
「はい…。」
「その次の日から今日まで、会社に来てないってことになるわ。」
航は恐怖を感じる。あの日、あの後、百合に何があったのか。
「これは、あくまで私の推測なんだけど…。」
「何ですか…?何でも言ってください、お願いします。」
「推測を前提に聞いてちょうだい。」
「はい…。」
「3日前、確かに航くんとも何かあったのかもしれない。だけど、あの子自身にも、何かあったんじゃないかしらって…。」
「何って…何なんですか…。」
「そこまではわからないけど…。あの子自身にも何かがあって、そこに航くんとのことが重なった…。」
「あいつ自身…。」
「何か心当たり、ない?」
航は最後に会った百合だけしか思い出せない。別人のようだった百合を。
「…わかんねぇ…。」
「航くん。あの子、待ってるわ。航くんのこと。」
「オレ…?オレなんか…。」
「きっと待ってる。だから無駄にしないで、ユリの想いも、航くん、あなたの想いも。」
「そんなこと言われてもオレは…。」
「私達は生きてるの。その尊さ、わかるわよね?」
友江の言葉は、航の心を突き刺した。航は冷静を探す。
「はい…。」
「あの子が3日も無断欠勤、尋常じゃないことも、わかるわよね?あの子を救えるのは航くん、あなただと思うわ。」
「…はい…ありがとうございました…。」
航は下を向き、目を閉じた。後輩とその恋人が、航の頭に浮かぶ。ふたりとも悲しい表情をしていた。後輩はうつむき、その恋人は涙を流す。そして航に訴えるように囁いた。
航さん、助けて…
航はハッとし、目を開け頭を上げる。
「…なんだ、あいつら…。」
その次の瞬間、航のスマホが鳴る。ビクッとする航。恐る恐るスマホを見ると、百合からの着信だった。後輩とその恋人、そのふたりが頭に浮かんだことに何か意味があるものだと信じ、航は着信ボタンを押した。
見つけたスマホには、百合からのおはようのラインが入っていなかった。百合とラインのやりとりをするようになってから、毎日欠かさずあったもの。百合のおはようの一言が途切れた朝。航はただただ呆然としていた。
航のそばに百合がいない日々になった。百合の出した言葉の弾が、航の心を目掛けて飛んできたのは確かだった。その弾が、心の中にまだあることも。
朝のおはよう、夜のおやすみ。どちらの百合も航のスマホに現れなくなった。
朝のおはようが、なくなってから3日。航は仕事が終わる。空は薄暗い。外の古びたベンチに座り、航はひとりぼーっとする。手には百合の作ったスマホケース。無意識に、航は百合に電話をする。繋がらなかった。もう一度電話をする。繋がらない。航の意識がはっきりしてくる。もう一度、もう一度、何度電話をしても繋がらなかった。ふっと立ち上がる航。
航は墓地に来た。桜の木が3本が、寄り添うようにある墓地。ある家の墓の前に、航は座り込む。工場の社長、相原家の墓だった。そこには、航の一番の後輩とその恋人が眠っている。航は下を向き、小さな声。呟くように話しかける。
「おい…。こんな時、どうしたらいいんだ…。お前らならわかるんだろ?知ってるんだろ?」
雨が降ってくる。小さな雨粒。航を濡らす。
「お前らはいつも勝手で…。たまにはオレの言うこと聞いてくれよ…。」
航はうなだれる。
「…何か言ってくれよ…。」
しとしとと降る雨。じっくりと航を濡らしていく。空が泣いていた。
「お前らがいてくれたら…。」
航は思い出す。後輩の恋人、その先輩。それは友江。友江の存在を思い出す。
「友江さん…。」
航は走り出す。工場に向かって。そして工場のすぐ裏の、おんぼろのアパート。ある部屋に飛び込む。後輩の住んでいた、今は空き部屋の部屋。慌てて入った航。玄関の段差に足がこすれ、ジーンズの裾が切れてしまう。航はすぐに友江に電話をする。友江が話し出す前に、航が声を出した。
「友江さん!」
「どーしたのー??そんなに急いじゃって。何かあったの??」
「あいつ…あいつと…。」
「…あいつって、ユリね?」
「はい…。」
「何かあったの?」
「電話が…繋がらないんです…。」
「…いつから繋がらないの?」
「いつから…。…最後に会ったのが3日前で…さっき電話したら繋がらなくて…何度電話しても…。」
友江は航にそれ以上何も聞かず、少し考える。
「わかった、私も連絡してみる。」
「すみません…。」
「だから待っててちょうだい。私のことも、ユリのことも。」
「あいつ…?」
「信じて待っててあげてちょうだい。わかったわね?」
「はい…ありがとうございます…。」
航はため息をつき、目の前にある小さなテーブルにゆっくり腕を置いた。そしてそっとスマホを置く。頭を両手で抱え、何かの知らせを待っていた。
どれくらい時間が経ったのかわからない。外は真っ暗になっていた。航のスマホが鳴る。友江からの着信だった。
「友江さん!」
「航くん?やっぱり私もだめだった。何の反応もない。」
「そうですか…。」
「それでね、会社の後輩にも聞いてみたの。そしたらユリ、会社に来てないって。」
「え…?」
「しかも3日間、無断欠勤だそうよ。」
「3日も…。」
「さっき航くん、ユリと最後に会ったの3日前って言ったわよね?」
「はい…。」
「その次の日から今日まで、会社に来てないってことになるわ。」
航は恐怖を感じる。あの日、あの後、百合に何があったのか。
「これは、あくまで私の推測なんだけど…。」
「何ですか…?何でも言ってください、お願いします。」
「推測を前提に聞いてちょうだい。」
「はい…。」
「3日前、確かに航くんとも何かあったのかもしれない。だけど、あの子自身にも、何かあったんじゃないかしらって…。」
「何って…何なんですか…。」
「そこまではわからないけど…。あの子自身にも何かがあって、そこに航くんとのことが重なった…。」
「あいつ自身…。」
「何か心当たり、ない?」
航は最後に会った百合だけしか思い出せない。別人のようだった百合を。
「…わかんねぇ…。」
「航くん。あの子、待ってるわ。航くんのこと。」
「オレ…?オレなんか…。」
「きっと待ってる。だから無駄にしないで、ユリの想いも、航くん、あなたの想いも。」
「そんなこと言われてもオレは…。」
「私達は生きてるの。その尊さ、わかるわよね?」
友江の言葉は、航の心を突き刺した。航は冷静を探す。
「はい…。」
「あの子が3日も無断欠勤、尋常じゃないことも、わかるわよね?あの子を救えるのは航くん、あなただと思うわ。」
「…はい…ありがとうございました…。」
航は下を向き、目を閉じた。後輩とその恋人が、航の頭に浮かぶ。ふたりとも悲しい表情をしていた。後輩はうつむき、その恋人は涙を流す。そして航に訴えるように囁いた。
航さん、助けて…
航はハッとし、目を開け頭を上げる。
「…なんだ、あいつら…。」
その次の瞬間、航のスマホが鳴る。ビクッとする航。恐る恐るスマホを見ると、百合からの着信だった。後輩とその恋人、そのふたりが頭に浮かんだことに何か意味があるものだと信じ、航は着信ボタンを押した。