ビビってません! 〜あなたの笑顔は私の笑顔〜
第50話〜ヘイキ
「これ、お願いします。」
百合は合鍵を作る。航のための合鍵。そして帰宅し、その鍵をテーブルに置く。テーブルの中央。その箱は目立っていた。百合は左手を見る。握りながら想い出す、航の手、そのぬくもり。
「平気って、何…。」
さらに。少し時間はかかったが、キッチンが綺麗になった。破片の入った袋を処分し、掃除機をかけた。それを百合はひとりでやり遂げた。
後日、百合は買い物をする。近くのデパート内、インテリアショップ。お洒落なもの、可愛いものが売っている店。割ってしまった食器を買いにきた。とりあえず必要最小限のものを選ぶ。グラスも選んだ。シャープで色の付いた江戸切子のグラスとは違う、丸みをおびた透明なグラス。色々と店内を見て歩く。
「あ…可愛い…。」
立ち止まり、じっと見る。それも選びレジへ向かった。その日、リビングのテーブルの中央。箱に太いマジックで大きく書く。そして航にラインする。
鍵ができたので、週末来てもらえませんか?
行くよ ありがとな
笑顔になる百合。
「あ!メニュー考えなくちゃ!」
百合はノートを広げ、メニューを考える。航を想う。時間を忘れる時間。
そして週末。おいしい時間がきた。
「来たぞ。」
「はい、待ってました。」
その後の週末も、何も変わることはなかった。その日はまた、航は荷物を持ってきた。ふたりはリビングへ。
「今日は何を持ってきたんですか?」
「アコギ。」
「あれ?航さん、ベースって前に言ってませんでしたっけ…。」
「これなら少し弾ける。3曲くらい。それだけ。それよりどんどんオレの部屋がきれいになる。あーすっきり。」
「やっぱりここは、荷物置き場です…。」
航は当然、百合をじっと見る。
「文句あるか。」
本当はすごく嬉しい百合。しかしその表現方法が見つからない。困った百合は、とっさに航に抱きついた。その時。目についたテーブルの中央。航はまだ気づいていない。百合は立ち上がりながら、箱をテーブルの下に置いた。
「ご飯、運びますね。」
航はギターを、空いているスペースに適当に置く。振り返りテーブルを見ると、透明なグラスが置かれていた。航は少し寂しい思いがしたが、ネームプレートは変わらず置いてあった。航の特等席は変わらない。航はそこに座った。
「じゃ、いただきます。」
「はい、召し上がれ、です。」
お互い、あの日のこと、あの過去のことは何も触れなかった。流れに任せた。無理でも、意図的でもなく。
「このグラタンうまい。」
「それ、パンごと食べられます。だから全部食べてください。」
「寒くなったらあったかいの食いたい。」
「じゃあ…、お鍋しましょ?」
その百合の一言は、とても可愛らしかった。航は百合を見る。照れを隠す。
「何ですか?」
「シメは何だ?」
「んー…お鍋なんて、会社の飲み会で少ししたくらいしか…。」
「オレ、うどんがいい。」
その航の一言が、とても可愛く見えた。嬉しさを、百合も隠す。百合は笑顔で答えた。
「じゃあ、そうしましょう。楽しみです。」
テーブルには、食べ終わった食器。それとビールが注がれた新しいグラス。
「買いに行こう。散歩がてら。」
「え?」
「グラス。」
「あ…。」
「欲しくないのか?」
「あの…、またどこかでいいものがあったら、その時そこで買いませんか?」
「何でだよ。」
「あれはあれ、次は次…。そういうふうに、したいなって。あのグラスは、役目を果たしたというか…。」
過去は過去。航はそう思った。
「そーだな。それもいいな。想い出も増える。」
「うまく説明できなくて、ごめんなさい。せっかく航さん、そう言ってくれてるのに…。」
「謝るな。次が楽しみだな。」
「はい…。」
航は百合をやさしく受け入れた。
「テーブル、片付けますね。」
百合は立ち上がり、食器を片付けていく。テーブルの上が静かになる。航はテーブルの下、床に何か置いてあるのが見えた。コンドームの箱。そこには大きな文字。
ヘイキ
百合は合鍵を作る。航のための合鍵。そして帰宅し、その鍵をテーブルに置く。テーブルの中央。その箱は目立っていた。百合は左手を見る。握りながら想い出す、航の手、そのぬくもり。
「平気って、何…。」
さらに。少し時間はかかったが、キッチンが綺麗になった。破片の入った袋を処分し、掃除機をかけた。それを百合はひとりでやり遂げた。
後日、百合は買い物をする。近くのデパート内、インテリアショップ。お洒落なもの、可愛いものが売っている店。割ってしまった食器を買いにきた。とりあえず必要最小限のものを選ぶ。グラスも選んだ。シャープで色の付いた江戸切子のグラスとは違う、丸みをおびた透明なグラス。色々と店内を見て歩く。
「あ…可愛い…。」
立ち止まり、じっと見る。それも選びレジへ向かった。その日、リビングのテーブルの中央。箱に太いマジックで大きく書く。そして航にラインする。
鍵ができたので、週末来てもらえませんか?
行くよ ありがとな
笑顔になる百合。
「あ!メニュー考えなくちゃ!」
百合はノートを広げ、メニューを考える。航を想う。時間を忘れる時間。
そして週末。おいしい時間がきた。
「来たぞ。」
「はい、待ってました。」
その後の週末も、何も変わることはなかった。その日はまた、航は荷物を持ってきた。ふたりはリビングへ。
「今日は何を持ってきたんですか?」
「アコギ。」
「あれ?航さん、ベースって前に言ってませんでしたっけ…。」
「これなら少し弾ける。3曲くらい。それだけ。それよりどんどんオレの部屋がきれいになる。あーすっきり。」
「やっぱりここは、荷物置き場です…。」
航は当然、百合をじっと見る。
「文句あるか。」
本当はすごく嬉しい百合。しかしその表現方法が見つからない。困った百合は、とっさに航に抱きついた。その時。目についたテーブルの中央。航はまだ気づいていない。百合は立ち上がりながら、箱をテーブルの下に置いた。
「ご飯、運びますね。」
航はギターを、空いているスペースに適当に置く。振り返りテーブルを見ると、透明なグラスが置かれていた。航は少し寂しい思いがしたが、ネームプレートは変わらず置いてあった。航の特等席は変わらない。航はそこに座った。
「じゃ、いただきます。」
「はい、召し上がれ、です。」
お互い、あの日のこと、あの過去のことは何も触れなかった。流れに任せた。無理でも、意図的でもなく。
「このグラタンうまい。」
「それ、パンごと食べられます。だから全部食べてください。」
「寒くなったらあったかいの食いたい。」
「じゃあ…、お鍋しましょ?」
その百合の一言は、とても可愛らしかった。航は百合を見る。照れを隠す。
「何ですか?」
「シメは何だ?」
「んー…お鍋なんて、会社の飲み会で少ししたくらいしか…。」
「オレ、うどんがいい。」
その航の一言が、とても可愛く見えた。嬉しさを、百合も隠す。百合は笑顔で答えた。
「じゃあ、そうしましょう。楽しみです。」
テーブルには、食べ終わった食器。それとビールが注がれた新しいグラス。
「買いに行こう。散歩がてら。」
「え?」
「グラス。」
「あ…。」
「欲しくないのか?」
「あの…、またどこかでいいものがあったら、その時そこで買いませんか?」
「何でだよ。」
「あれはあれ、次は次…。そういうふうに、したいなって。あのグラスは、役目を果たしたというか…。」
過去は過去。航はそう思った。
「そーだな。それもいいな。想い出も増える。」
「うまく説明できなくて、ごめんなさい。せっかく航さん、そう言ってくれてるのに…。」
「謝るな。次が楽しみだな。」
「はい…。」
航は百合をやさしく受け入れた。
「テーブル、片付けますね。」
百合は立ち上がり、食器を片付けていく。テーブルの上が静かになる。航はテーブルの下、床に何か置いてあるのが見えた。コンドームの箱。そこには大きな文字。
ヘイキ