ビビってません! 〜あなたの笑顔は私の笑顔〜
第57話〜星
本格的に寒くなる、少し手前。ふたりは近出する。初めての旅行。星を見るため。
「一泊二日。何をどこまで持って行けばいいんだろう。んー。」
百合は遠足気分、嬉しさ、楽しさ、恥ずかしさ。
「時間はかかるけど、乗り換えは面倒だし、ゆったりした席でゆっくり行きたかった。いいか?」
「はい、もちろんです。」
ふたりは急行列車に乗る。
着いた先は、空の青と木の緑しかない壮大な景色が広がっていた。向かった宿は、旅館とホテルの中間。木の柱、石の畳、綺麗なエントランス。チェックインを済ませる航。ふたりは部屋に案内された。部屋に入るふたり。
「うわぁ…広い…明るい…。あれ?」
百合は大きな窓に近づく。ウッドチェアのあるテラスがあった。
「ここからも星、見えるの…?」
「充分、見えるだろうな。でももっとすげー所がある。」
「どこですか??」
「行ってみるか?」
百合は航に付いていく。どきどきしていた。
「ここだ。」
そこは屋上。それは大きなテラス。大きなチェアもあった。そして、見えたのは山と空。緑と青。それだけだった。自然の大パノラマ。百合は柵に手を置き、言葉を失う。パノラマをずっと見ていた。
「どうだ?」
百合は声も失う。それを見た航は嬉しかった。
「夜また来よう。その時は星が見える。」
「待ってください。もう少しいたい…。」
「じゃあ好きなだけいろ。」
「こんな場所があるなんて…。空気も違う気がする…。」
「東京とは、違うだろうな。」
「航さんがいなかったら、ずっと知らなかった…こんな場所…。」
「それは大袈裟だ。」
百合に航の声が入らない。
「航さん?」
「ん?」
やっと百合は航を見る。
「ありがとう…。」
航は微笑みながら、百合の頭をなでた。
「部屋に戻ろう。夜の飯まで時間がある。風呂入りに行こう。」
「はい。」
百合は名残惜しそうにテラスを後にした。
「浴衣、きれい…。」
色鮮やかで、綺麗な柄の浴衣だった。そして大浴場へ向かうふたり。温泉、白く濁った湯に感激した百合は、心も体も癒された。部屋に戻ると航はもう待っていた。
「ゆっくりできたか?」
「はい、気持ちよかったです。」
笑顔のふたりは夕食の時間。個室になった食事所だった。季節の豪華な料理を、ふたり笑顔で食べた。
「航さん、私もう満足です。」
「バカ。メインはこれからだ。何の為にここに来たんだ。」
ふたりは部屋へ一度戻る。布団が敷いてあった。そしてメインの時間。
「寒いから上着持っていけ。」
昼間に行った屋上のテラスへ向かう。今回の旅行のメイン。
「航さん?」
「なんだ?」
「腕、組んでもいいですか?」
「いちいち聞くな。」
そう言う航は前を見つつ、腕を広げてきた。百合は嬉しくなり、小さく笑いながら航の腕を組む。そしてテラスに着く。
「え…?」
漆黒の空。そこに小さな粉のような白い星を、空よりもさらに高い場所から振りまいたような、数えきれない星たち。それが百合と航を待っていた。見事な星空だった。百合は航の腕をきつく組む。
「きれいだな。」
「信じられない…。」
「よく見ておくんだ、星も空も。」
「航さん…。」
「ん?」
「航さん…。」
星空に見とれる百合の、言葉にならない言葉を航は聞く。ふたり同じ星空の下。神秘的な世界。
「空から見たオレたちは、すげー小さいんだろうな。」
航は空に話しかける。百合は航の目を見る。
「そんなオレたちの抱えてるものも。」
「抱えてるもの…。」
「悩みとか悲しみ、苦しみ。そーゆーの。」
「航さん、何か悩んでるんですか?」
百合が問いかけても航は答えず、ずっと星空を見ていた。百合は質問を変えてみる。
「航さん、今何を考えてるんですか…?」
航は質問に答えた。
「後輩。」
「後輩?」
「オレの一番大切だった後輩。」
「どうしてその後輩の人のことなんですか?」
航はさらに目線を上げた。
「そいつ、この空のもっと上にいるんだ。」
航は大切な人を失っていた。その事実を知った百合はショックを受ける。いつどんな時でもやさしい航。そんな航は悲しみを抱えていた。百合も悲しくなる。顔も知らないその後輩を、探すかのように慌てて星空を見上げる百合。
「そんなに遠い所にいるなら…ここからじゃ見えません…。」
「オレたちからは見えないけど、あいつからなら見えるかもしれない…。」
百合は初めて見る、航の悲しい目。横顔でもはっきりわかる哀しい目、やりきれない表情。
「オレはあいつに何もしてやれなかった。何でもいい、何かひとつでもしてやれてたら、何か変わってたかもしれない…。」
百合は涙をこらえる。航の悲しい思いを、少しでも輝きに変えたいと思った。今見えている星のように。
「この星空に…そんな悲しい顔は、合いません…。それに、その人は航さんの一番大切な後輩だったんですよね?それなら、その後輩の人も航さんのこと、一番大切に思ってたと思います。だからそんな悲しい顔、してほしくないと思ってる…。」
百合は涙をこぼしてしまう。
「航さん…言ってたじゃないですか…。『空は見てる』って…。航さんのこと…きっと見てます。きっと見守ってます…。」
「そうだといいんだけどな。そうであってくれれば…。」
「私は、そう思います。」
力強く言う百合の目は涙で潤み、輝いていた。航は言った、やさしい目とやさしい声で。
「そうだな。」
改めて見る満天の星空。星空の上の天まで見た、夜の空。
「一泊二日。何をどこまで持って行けばいいんだろう。んー。」
百合は遠足気分、嬉しさ、楽しさ、恥ずかしさ。
「時間はかかるけど、乗り換えは面倒だし、ゆったりした席でゆっくり行きたかった。いいか?」
「はい、もちろんです。」
ふたりは急行列車に乗る。
着いた先は、空の青と木の緑しかない壮大な景色が広がっていた。向かった宿は、旅館とホテルの中間。木の柱、石の畳、綺麗なエントランス。チェックインを済ませる航。ふたりは部屋に案内された。部屋に入るふたり。
「うわぁ…広い…明るい…。あれ?」
百合は大きな窓に近づく。ウッドチェアのあるテラスがあった。
「ここからも星、見えるの…?」
「充分、見えるだろうな。でももっとすげー所がある。」
「どこですか??」
「行ってみるか?」
百合は航に付いていく。どきどきしていた。
「ここだ。」
そこは屋上。それは大きなテラス。大きなチェアもあった。そして、見えたのは山と空。緑と青。それだけだった。自然の大パノラマ。百合は柵に手を置き、言葉を失う。パノラマをずっと見ていた。
「どうだ?」
百合は声も失う。それを見た航は嬉しかった。
「夜また来よう。その時は星が見える。」
「待ってください。もう少しいたい…。」
「じゃあ好きなだけいろ。」
「こんな場所があるなんて…。空気も違う気がする…。」
「東京とは、違うだろうな。」
「航さんがいなかったら、ずっと知らなかった…こんな場所…。」
「それは大袈裟だ。」
百合に航の声が入らない。
「航さん?」
「ん?」
やっと百合は航を見る。
「ありがとう…。」
航は微笑みながら、百合の頭をなでた。
「部屋に戻ろう。夜の飯まで時間がある。風呂入りに行こう。」
「はい。」
百合は名残惜しそうにテラスを後にした。
「浴衣、きれい…。」
色鮮やかで、綺麗な柄の浴衣だった。そして大浴場へ向かうふたり。温泉、白く濁った湯に感激した百合は、心も体も癒された。部屋に戻ると航はもう待っていた。
「ゆっくりできたか?」
「はい、気持ちよかったです。」
笑顔のふたりは夕食の時間。個室になった食事所だった。季節の豪華な料理を、ふたり笑顔で食べた。
「航さん、私もう満足です。」
「バカ。メインはこれからだ。何の為にここに来たんだ。」
ふたりは部屋へ一度戻る。布団が敷いてあった。そしてメインの時間。
「寒いから上着持っていけ。」
昼間に行った屋上のテラスへ向かう。今回の旅行のメイン。
「航さん?」
「なんだ?」
「腕、組んでもいいですか?」
「いちいち聞くな。」
そう言う航は前を見つつ、腕を広げてきた。百合は嬉しくなり、小さく笑いながら航の腕を組む。そしてテラスに着く。
「え…?」
漆黒の空。そこに小さな粉のような白い星を、空よりもさらに高い場所から振りまいたような、数えきれない星たち。それが百合と航を待っていた。見事な星空だった。百合は航の腕をきつく組む。
「きれいだな。」
「信じられない…。」
「よく見ておくんだ、星も空も。」
「航さん…。」
「ん?」
「航さん…。」
星空に見とれる百合の、言葉にならない言葉を航は聞く。ふたり同じ星空の下。神秘的な世界。
「空から見たオレたちは、すげー小さいんだろうな。」
航は空に話しかける。百合は航の目を見る。
「そんなオレたちの抱えてるものも。」
「抱えてるもの…。」
「悩みとか悲しみ、苦しみ。そーゆーの。」
「航さん、何か悩んでるんですか?」
百合が問いかけても航は答えず、ずっと星空を見ていた。百合は質問を変えてみる。
「航さん、今何を考えてるんですか…?」
航は質問に答えた。
「後輩。」
「後輩?」
「オレの一番大切だった後輩。」
「どうしてその後輩の人のことなんですか?」
航はさらに目線を上げた。
「そいつ、この空のもっと上にいるんだ。」
航は大切な人を失っていた。その事実を知った百合はショックを受ける。いつどんな時でもやさしい航。そんな航は悲しみを抱えていた。百合も悲しくなる。顔も知らないその後輩を、探すかのように慌てて星空を見上げる百合。
「そんなに遠い所にいるなら…ここからじゃ見えません…。」
「オレたちからは見えないけど、あいつからなら見えるかもしれない…。」
百合は初めて見る、航の悲しい目。横顔でもはっきりわかる哀しい目、やりきれない表情。
「オレはあいつに何もしてやれなかった。何でもいい、何かひとつでもしてやれてたら、何か変わってたかもしれない…。」
百合は涙をこらえる。航の悲しい思いを、少しでも輝きに変えたいと思った。今見えている星のように。
「この星空に…そんな悲しい顔は、合いません…。それに、その人は航さんの一番大切な後輩だったんですよね?それなら、その後輩の人も航さんのこと、一番大切に思ってたと思います。だからそんな悲しい顔、してほしくないと思ってる…。」
百合は涙をこぼしてしまう。
「航さん…言ってたじゃないですか…。『空は見てる』って…。航さんのこと…きっと見てます。きっと見守ってます…。」
「そうだといいんだけどな。そうであってくれれば…。」
「私は、そう思います。」
力強く言う百合の目は涙で潤み、輝いていた。航は言った、やさしい目とやさしい声で。
「そうだな。」
改めて見る満天の星空。星空の上の天まで見た、夜の空。