ビビってません! 〜あなたの笑顔は私の笑顔〜
第60話~おとぎ話のレストラン
そして迎えてしまったクリスマス・イヴ。百合は結局、航へのプレゼントは何も用意できなかった。
航は百合のアパートへ。ふたり手をつなぎ、航の先輩の店に行く。前回とは違う、ふたりの距離。百合の手の震えもない。心の距離ももうなくなっていた。
「航さん。クリスマスプレゼント、すごく悩んだんですけど…。」
「そんなもんいらねーよ。オレだって何もない。気にすんな。」
細い路地を歩き、店に着く。航は扉を開け、百合が入る。前回と同じ、シェフは笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそ。待ってたよ。」
「こんな日に、本当にありがとうございます、先輩。」
「いいんだよ。何でも言ってくれ。百合ちゃんも、来てくれてありがとう。」
「いえ、私が航さんにお願いしたんです。ありがとうございます。」
百合はぺこっと頭を下げた。
「百合ちゃん、綺麗になったね。航のおかげかな?」
「えっ、きれい…。」
「先輩、こいつにそういうこと言わないでください。すぐ間に受けるんで。」
シェフは一番奥のテーブルを空けておいてくれた。予約席というプレート。航と百合のための席。窓際には、3灯のキャンドルスタンド。百合はおとぎ話の中へ。
「今日もシャンパンだな。」
キラキラ輝くシャンパンが百合たちのテーブルに。航は少し笑いながら頬杖をつき、わかり切ったことを百合に聞く。
「今日は何に乾杯だ?」
「もちろん、クリスマスです。」
「来年の予約も今日するか?」
百合は笑う。ふたりは笑って乾杯をした。
おいしい時間が始まる。抽象画を切り取ったような美しい料理。クリスマス、赤と緑の絶妙なコントラストが綺麗だった。シェフのこだわり、優しさを感じる料理。とてもおいしかった。
デザートは小さなチョコレートケーキ。ケーキの上に金粉が降っている。バニラのアイスクリームが添えてあった。
「航さん。そういえば、このお店の名前、何ていうんですか?」
「コント・ド・フェ。」
「…どういう意味なんですか?」
「フランス語で『おとぎ話』、だそうだ。」
「おとぎ…話…。」
百合は店内を見渡す。
「それがどうかしたか?」
「私…前来た時、思ったんです…。おとぎ話の中にいるみたいって…。」
「先輩に言ってみろ。きっと喜ぶ。」
話を続ける百合。
「おとぎ話の中で、航さんがおとぎ話をしているみたいで…。夢みたいでした…。」
航はいつもの、やさしい目、やさしい声。
「そのおとぎ話、夢だったか?」
百合は横に首を振る。
「いえ…夢じゃありませんでした…。でも、でも私、私その時まだ航さんに…。」
「百合。」
航は百合の話を止める。どきっとする百合。やさしいまま、航は話し出す。
「あれはあれ、次は次。そう言ったよな?そうやって積み重ねていってもいいんじゃねぇか?これからも色々あるだろう。お互い知らないことだってまだまだある。それも全部重ねて、オレ達の歴史を作るんだ。オレ達だけの。きっと楽しい歴史になる。一緒に作ろう。な?」
それを聞いた百合は何も言えず、喜びと涙だけが満ちる。航を見つめながら。それを航はずっと見守る。変わらない、やさしい目。百合からひとつの涙が落ちた時、やっとひとつの言葉が出た。
「はい…。」
航は微笑む。
「百合。」
「はい…。」
「好きだ。」
涙をこらえ、百合も微笑む。
「わかって…ます…。」
ふたりは笑顔になる。笑顔の百合の目からは、こらえていた流れ星。
ケーキに添えてあったアイスクリームは溶けてしまっていた。百合はケーキにフォークをサクッとし、航に向ける。
「航さん、口開けてください。あーん…。」
「ふざけんな、そんなことしねーよ。」
「恥ずかしいんですか?あ、ビビってるんですか?」
「こいつ…。」
航は百合の髪をくしゃっとした。
「ひどいです、航さん!」
透き通る涙とじゃれあうふたり。そんなクリスマス・イヴ。
航は百合のアパートへ。ふたり手をつなぎ、航の先輩の店に行く。前回とは違う、ふたりの距離。百合の手の震えもない。心の距離ももうなくなっていた。
「航さん。クリスマスプレゼント、すごく悩んだんですけど…。」
「そんなもんいらねーよ。オレだって何もない。気にすんな。」
細い路地を歩き、店に着く。航は扉を開け、百合が入る。前回と同じ、シェフは笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそ。待ってたよ。」
「こんな日に、本当にありがとうございます、先輩。」
「いいんだよ。何でも言ってくれ。百合ちゃんも、来てくれてありがとう。」
「いえ、私が航さんにお願いしたんです。ありがとうございます。」
百合はぺこっと頭を下げた。
「百合ちゃん、綺麗になったね。航のおかげかな?」
「えっ、きれい…。」
「先輩、こいつにそういうこと言わないでください。すぐ間に受けるんで。」
シェフは一番奥のテーブルを空けておいてくれた。予約席というプレート。航と百合のための席。窓際には、3灯のキャンドルスタンド。百合はおとぎ話の中へ。
「今日もシャンパンだな。」
キラキラ輝くシャンパンが百合たちのテーブルに。航は少し笑いながら頬杖をつき、わかり切ったことを百合に聞く。
「今日は何に乾杯だ?」
「もちろん、クリスマスです。」
「来年の予約も今日するか?」
百合は笑う。ふたりは笑って乾杯をした。
おいしい時間が始まる。抽象画を切り取ったような美しい料理。クリスマス、赤と緑の絶妙なコントラストが綺麗だった。シェフのこだわり、優しさを感じる料理。とてもおいしかった。
デザートは小さなチョコレートケーキ。ケーキの上に金粉が降っている。バニラのアイスクリームが添えてあった。
「航さん。そういえば、このお店の名前、何ていうんですか?」
「コント・ド・フェ。」
「…どういう意味なんですか?」
「フランス語で『おとぎ話』、だそうだ。」
「おとぎ…話…。」
百合は店内を見渡す。
「それがどうかしたか?」
「私…前来た時、思ったんです…。おとぎ話の中にいるみたいって…。」
「先輩に言ってみろ。きっと喜ぶ。」
話を続ける百合。
「おとぎ話の中で、航さんがおとぎ話をしているみたいで…。夢みたいでした…。」
航はいつもの、やさしい目、やさしい声。
「そのおとぎ話、夢だったか?」
百合は横に首を振る。
「いえ…夢じゃありませんでした…。でも、でも私、私その時まだ航さんに…。」
「百合。」
航は百合の話を止める。どきっとする百合。やさしいまま、航は話し出す。
「あれはあれ、次は次。そう言ったよな?そうやって積み重ねていってもいいんじゃねぇか?これからも色々あるだろう。お互い知らないことだってまだまだある。それも全部重ねて、オレ達の歴史を作るんだ。オレ達だけの。きっと楽しい歴史になる。一緒に作ろう。な?」
それを聞いた百合は何も言えず、喜びと涙だけが満ちる。航を見つめながら。それを航はずっと見守る。変わらない、やさしい目。百合からひとつの涙が落ちた時、やっとひとつの言葉が出た。
「はい…。」
航は微笑む。
「百合。」
「はい…。」
「好きだ。」
涙をこらえ、百合も微笑む。
「わかって…ます…。」
ふたりは笑顔になる。笑顔の百合の目からは、こらえていた流れ星。
ケーキに添えてあったアイスクリームは溶けてしまっていた。百合はケーキにフォークをサクッとし、航に向ける。
「航さん、口開けてください。あーん…。」
「ふざけんな、そんなことしねーよ。」
「恥ずかしいんですか?あ、ビビってるんですか?」
「こいつ…。」
航は百合の髪をくしゃっとした。
「ひどいです、航さん!」
透き通る涙とじゃれあうふたり。そんなクリスマス・イヴ。