ビビってません! 〜あなたの笑顔は私の笑顔〜
第70話~これから、も
百合の部屋。インターホンが鳴る。
「はい!」
百合はドアを開く。航がいた。紙袋をふたつ持っている。
「来たぞ。」
「はい、待ってました。」
笑顔のふたり。ずっと変わらない。
航は立ってカーテンを少し開けた。
「もう3月か…。鍋、百合、鍋、百合ができなくなるじゃねーか…。」
「そんなの関係ないじゃないですか…。」
百合はぼそっと言った。航は百合をじろっと見る。口をぎゅっと閉じ、百合は黙る。航は座り、テーブルにひとつ目の紙袋を置いた。小さめの袋。
「?今日は何を持ってきてくれたんですか?」
「お返し。ホワイトデー。」
「あ…。」
「すげーもんもらったからな。…オレもオレ用のすげー下着買えばよかったか…。」
「航さん!」
「冗談だ。開けてみろ。」
中身の想像がつかない百合は、不思議に思いながら袋を覗く。箱が入っていた。ゆっくり開けて見る。中身は腕時計だった。一見、シンプルな腕時計。
「昔その店の時計、オレも持ってたんだ。それ思い出した。…あんたの今してる時計。革のベルトが、少し古そうに見えたから。」
百合はそっと、じっと見る。小さく丸い、ステンレス製の腕時計。文字盤はパール調で、12本の線と3本の針。文字盤と同じくらいの太さのベルトは、メッシュベルトだった。目を大きくし、見惚れる百合。可愛い過ぎることも、どこも強調するところもなく、バランスの取れた時計。センスのいい、航らしいチョイスだった。
「時計も、好みがあると思ったんだけどな。まぁ、受け取ってくれよ。」
百合はずっと見惚れていた。
「…きれいでかわいくて、お洒落でかっこよくて…。こういうの、『素敵』って言うんでしょうね…。それにこれ、航さんらしさを感じます…。アクセサリーみたいに…。」
「どうだ?…やっぱり、あんたは腕が細いから、小さい文字盤の選んで正解だったな。」
「…航さん…。すごく、嬉しいです。毎日、もっと楽しくなります…。」
時計を握り、百合は笑った。百合らしい、控え目な笑顔。
「ありがとう、航さん…。」
それを見た航は言う。やさしい目、やさしい声。時計を握った百合の手を、航は握る。
「それで新しい時間を作るんだ。これからも一緒に。な?」
『これから』に『も』が付いた。百合は嬉しさのあまり体が少し固まってしまう。しかし返事を急ぎたい百合。言葉を選ばないまま、思い切り笑った。
「はい!」
航も笑う。その航が、ふたつ目の紙袋をテーブルに置いた。ひとつ目より大きい紙袋。
「それから…これはついでで悪いんだけど…。」
「?何ですか?」
百合は袋に入った箱を出し、ふたを開けた。
「ん?服?」
「そんなもん買いに行けるか。広げてみろ。」
もうひとつはエプロン。Aラインのワンピースのようだった。いつも百合がしている腰に紐を巻くタイプではなく、肩から掛けるタイプのもの。色は水色。ふたつのポケットは白と青のストライプ。
「…かわいい…。しかもこれ、使い勝手良さそう…。」
「消耗品だと思うから、ボロボロになったら言ってくれ。」
「航さん…。」
「ん?」
「航さん!」
百合は航に勢いよく抱きつく。倒れ込むふたり。百合の顔の目の前に航の唇。
「お、始めるのか?オレはいい…。」
「始めません!」
起き上がる百合はまた勢いよく言った。
「予定変更です!航さん、買い物に付き合ってください!」
ふたりは近くのスーパーで買い出しに行く。沢山の食材を買った。店を出ようとした時、百合はレシートを落としてしまう。すると後ろから声を掛けられた。
「奥さん、落としましたよ!」
「え?」
百合が振り返ると、小さな男の子と手をつないだ主婦が、百合の落としたレシートを手渡してきた。
「あ、ありがとう、ございます…。」
百合は立ち尽くす。
「おく…さん…。」
ぼーっとする百合を見て、航は呼ぶ。
「何やってんだ、行くぞ。」
「はい…。」
「はい!」
百合はドアを開く。航がいた。紙袋をふたつ持っている。
「来たぞ。」
「はい、待ってました。」
笑顔のふたり。ずっと変わらない。
航は立ってカーテンを少し開けた。
「もう3月か…。鍋、百合、鍋、百合ができなくなるじゃねーか…。」
「そんなの関係ないじゃないですか…。」
百合はぼそっと言った。航は百合をじろっと見る。口をぎゅっと閉じ、百合は黙る。航は座り、テーブルにひとつ目の紙袋を置いた。小さめの袋。
「?今日は何を持ってきてくれたんですか?」
「お返し。ホワイトデー。」
「あ…。」
「すげーもんもらったからな。…オレもオレ用のすげー下着買えばよかったか…。」
「航さん!」
「冗談だ。開けてみろ。」
中身の想像がつかない百合は、不思議に思いながら袋を覗く。箱が入っていた。ゆっくり開けて見る。中身は腕時計だった。一見、シンプルな腕時計。
「昔その店の時計、オレも持ってたんだ。それ思い出した。…あんたの今してる時計。革のベルトが、少し古そうに見えたから。」
百合はそっと、じっと見る。小さく丸い、ステンレス製の腕時計。文字盤はパール調で、12本の線と3本の針。文字盤と同じくらいの太さのベルトは、メッシュベルトだった。目を大きくし、見惚れる百合。可愛い過ぎることも、どこも強調するところもなく、バランスの取れた時計。センスのいい、航らしいチョイスだった。
「時計も、好みがあると思ったんだけどな。まぁ、受け取ってくれよ。」
百合はずっと見惚れていた。
「…きれいでかわいくて、お洒落でかっこよくて…。こういうの、『素敵』って言うんでしょうね…。それにこれ、航さんらしさを感じます…。アクセサリーみたいに…。」
「どうだ?…やっぱり、あんたは腕が細いから、小さい文字盤の選んで正解だったな。」
「…航さん…。すごく、嬉しいです。毎日、もっと楽しくなります…。」
時計を握り、百合は笑った。百合らしい、控え目な笑顔。
「ありがとう、航さん…。」
それを見た航は言う。やさしい目、やさしい声。時計を握った百合の手を、航は握る。
「それで新しい時間を作るんだ。これからも一緒に。な?」
『これから』に『も』が付いた。百合は嬉しさのあまり体が少し固まってしまう。しかし返事を急ぎたい百合。言葉を選ばないまま、思い切り笑った。
「はい!」
航も笑う。その航が、ふたつ目の紙袋をテーブルに置いた。ひとつ目より大きい紙袋。
「それから…これはついでで悪いんだけど…。」
「?何ですか?」
百合は袋に入った箱を出し、ふたを開けた。
「ん?服?」
「そんなもん買いに行けるか。広げてみろ。」
もうひとつはエプロン。Aラインのワンピースのようだった。いつも百合がしている腰に紐を巻くタイプではなく、肩から掛けるタイプのもの。色は水色。ふたつのポケットは白と青のストライプ。
「…かわいい…。しかもこれ、使い勝手良さそう…。」
「消耗品だと思うから、ボロボロになったら言ってくれ。」
「航さん…。」
「ん?」
「航さん!」
百合は航に勢いよく抱きつく。倒れ込むふたり。百合の顔の目の前に航の唇。
「お、始めるのか?オレはいい…。」
「始めません!」
起き上がる百合はまた勢いよく言った。
「予定変更です!航さん、買い物に付き合ってください!」
ふたりは近くのスーパーで買い出しに行く。沢山の食材を買った。店を出ようとした時、百合はレシートを落としてしまう。すると後ろから声を掛けられた。
「奥さん、落としましたよ!」
「え?」
百合が振り返ると、小さな男の子と手をつないだ主婦が、百合の落としたレシートを手渡してきた。
「あ、ありがとう、ございます…。」
百合は立ち尽くす。
「おく…さん…。」
ぼーっとする百合を見て、航は呼ぶ。
「何やってんだ、行くぞ。」
「はい…。」