ビビってません! 〜あなたの笑顔は私の笑顔〜
第73話〜せめて
時は進み、ようやく春が来た。桜が咲いている。その日もよく晴れた日だった。
航は百合を連れて墓地へ向かう。航の後輩とその恋人が眠る場所。途中、花屋に寄るふたり。
「今日はこの花にしよう。」
航は百合の花を選んだ。
目的地に着く。静かな場所、少し高台になっている。3本の桜の木が印象的だった。3本寄り添うようにし、花は見事に咲き誇っている。友江夫婦たちが見えた。航は声を掛ける。
「お久し振りです。友江さん、野田さん。」
「久し振りね、航くん。ユリも。」
「はい。お久し振りです、友江先輩。」
「友江さん、社長と一緒じゃないんですか?」
相原家の墓を、友江は見る。
「私達が来た時にはもうお花が供えてあって、綺麗に掃除もされてたわ。亮くんと、ゆっくり話がしたかったんじゃないかしら…。」
「そうですか…。」
航は見た。その供えられた花を。その花から感じた様々な感情。悲しみ、悔しさ、寂しさ、そして愛しさ。航の胸が痛む。
「こんな所でなんだけど…。航くん、ユリ。おめでとう。」
「ありがとうございます、友江さん。友江さんには力を貸してもらって…。」
「いいのよ、そんなこと。困った時はお互い様よ。それより、ユリ。あんた似てる、カナに。」
「え?私がですか?」
「そう。弱いのに強い、強いのに弱い。そしてひとりで抱え込む。」
どきっとする百合。
「いいのよ、甘えたって暴れたって。それで離れていくような人は、ユリにとって必要のない人ってことなのよ。」
「…何となく、わかるような気がします…。今なら…。」
「久し振りに会ったんだし、ゆっくり話ましょ!ユリ、ジョリンで待ってるわ!」
「はい!」
友江夫婦は去っていった。
「オレたちの番だ。」
「はい。」
百合は航に付いていく。緊張の中に切ない気持ち。
「おい、亮。随分久し振りになって悪かったな。…たまにはこんな花もいいだろ。」
航は真っ白な百合の花を供えた。そして座り込む。百合は隣にしゃがんだ。
「今日は報告がある。亮。こいつ、降谷百合。お前の女の後輩だってよ。オレたち結婚する。」
「…加波子先輩、お久し振りです。百合です。こんな形で再会するなんて…。でも、ちゃんと挨拶をしたくて、今日来ました。それと…亮さん、初めまして。降谷百合です。私、航さんと結婚します。一度お会いしてみたかった…。」
航は百合の気持ちをありがたく思う。ため息をついた後、ゆっくり下を向いた。
「お前らは急ぎ過ぎだったんだよ…いつも全力疾走で…。よく疲れなかったな…。…でもそれだけ幸せだったんだろうな。今ならわかるよ、オレにも。」
「航さん私…、亮さんにお願いしたいことが…。」
「お願い?何だよ。」
「これからも航さんのこと、見守っていて欲しいんです。私ひとりじゃ航さんのこと、支え切れない時があるかもしれない…。」
「百合。」
「はい…。」
「こいつらの力は借りずに生きていくんだ、ふたりで。」
百合は反省し、恥ずかしくなる。
「そうですね…そうですよね。」
笑う百合。
「でも…本当にどうしようもなくなった時は、力借りるか。」
航も笑う。
「はい。」
ふたりは笑い合った。
「オレは、お前らの分まで生きるとか、幸せになるとか、そんなこと思ってねーよ。これからも一緒に生きるんだ。お前らと、百合と一緒に生きていく。それからオレは、お前らの味方だ。絶対に。忘れんなよ。」
百合は掘られた2人の名前を見た。
「平野亮…平野加波子…。加波子先輩、結婚してたんですか?」
「いや、してない。生きてる間はできなかったから『せめて』って、お願いして掘ってもらったんだよ。社長も友江さんとも意見が一致してな。」
「そうだったんですね…。おめでとうございます、加波子先輩…。」
ふたりは立ち上がり、手を合わせる。安息と幸せを祈った。
「また来るからな。」
墓石に向かって微笑みかける航。百合は航の純粋さを知る。航を改めて想うと同時に、そんな純粋な人間に、自分もなりたいと思った。
ふたりは友江達の待つジョリンに向かう。その途中。
「花見はどこに行くか。」
「んー。上野?ですか?でもどこでもいいです、航さんがいてくれたら。桜の木、1本でも。」
百合から出るストレートな言葉。いつまでも慣れることなく、航の胸にくる。続けて百合は言った。
「あ、私、お弁当作ります。ピクニックです。」
「おー、楽しそうだな。行こう、花見。」
いつまでも笑い合う、航と百合。
先祖代々之墓 相原家
平野 亮 三十歳
〃 加波子 二十七歳
航は百合を連れて墓地へ向かう。航の後輩とその恋人が眠る場所。途中、花屋に寄るふたり。
「今日はこの花にしよう。」
航は百合の花を選んだ。
目的地に着く。静かな場所、少し高台になっている。3本の桜の木が印象的だった。3本寄り添うようにし、花は見事に咲き誇っている。友江夫婦たちが見えた。航は声を掛ける。
「お久し振りです。友江さん、野田さん。」
「久し振りね、航くん。ユリも。」
「はい。お久し振りです、友江先輩。」
「友江さん、社長と一緒じゃないんですか?」
相原家の墓を、友江は見る。
「私達が来た時にはもうお花が供えてあって、綺麗に掃除もされてたわ。亮くんと、ゆっくり話がしたかったんじゃないかしら…。」
「そうですか…。」
航は見た。その供えられた花を。その花から感じた様々な感情。悲しみ、悔しさ、寂しさ、そして愛しさ。航の胸が痛む。
「こんな所でなんだけど…。航くん、ユリ。おめでとう。」
「ありがとうございます、友江さん。友江さんには力を貸してもらって…。」
「いいのよ、そんなこと。困った時はお互い様よ。それより、ユリ。あんた似てる、カナに。」
「え?私がですか?」
「そう。弱いのに強い、強いのに弱い。そしてひとりで抱え込む。」
どきっとする百合。
「いいのよ、甘えたって暴れたって。それで離れていくような人は、ユリにとって必要のない人ってことなのよ。」
「…何となく、わかるような気がします…。今なら…。」
「久し振りに会ったんだし、ゆっくり話ましょ!ユリ、ジョリンで待ってるわ!」
「はい!」
友江夫婦は去っていった。
「オレたちの番だ。」
「はい。」
百合は航に付いていく。緊張の中に切ない気持ち。
「おい、亮。随分久し振りになって悪かったな。…たまにはこんな花もいいだろ。」
航は真っ白な百合の花を供えた。そして座り込む。百合は隣にしゃがんだ。
「今日は報告がある。亮。こいつ、降谷百合。お前の女の後輩だってよ。オレたち結婚する。」
「…加波子先輩、お久し振りです。百合です。こんな形で再会するなんて…。でも、ちゃんと挨拶をしたくて、今日来ました。それと…亮さん、初めまして。降谷百合です。私、航さんと結婚します。一度お会いしてみたかった…。」
航は百合の気持ちをありがたく思う。ため息をついた後、ゆっくり下を向いた。
「お前らは急ぎ過ぎだったんだよ…いつも全力疾走で…。よく疲れなかったな…。…でもそれだけ幸せだったんだろうな。今ならわかるよ、オレにも。」
「航さん私…、亮さんにお願いしたいことが…。」
「お願い?何だよ。」
「これからも航さんのこと、見守っていて欲しいんです。私ひとりじゃ航さんのこと、支え切れない時があるかもしれない…。」
「百合。」
「はい…。」
「こいつらの力は借りずに生きていくんだ、ふたりで。」
百合は反省し、恥ずかしくなる。
「そうですね…そうですよね。」
笑う百合。
「でも…本当にどうしようもなくなった時は、力借りるか。」
航も笑う。
「はい。」
ふたりは笑い合った。
「オレは、お前らの分まで生きるとか、幸せになるとか、そんなこと思ってねーよ。これからも一緒に生きるんだ。お前らと、百合と一緒に生きていく。それからオレは、お前らの味方だ。絶対に。忘れんなよ。」
百合は掘られた2人の名前を見た。
「平野亮…平野加波子…。加波子先輩、結婚してたんですか?」
「いや、してない。生きてる間はできなかったから『せめて』って、お願いして掘ってもらったんだよ。社長も友江さんとも意見が一致してな。」
「そうだったんですね…。おめでとうございます、加波子先輩…。」
ふたりは立ち上がり、手を合わせる。安息と幸せを祈った。
「また来るからな。」
墓石に向かって微笑みかける航。百合は航の純粋さを知る。航を改めて想うと同時に、そんな純粋な人間に、自分もなりたいと思った。
ふたりは友江達の待つジョリンに向かう。その途中。
「花見はどこに行くか。」
「んー。上野?ですか?でもどこでもいいです、航さんがいてくれたら。桜の木、1本でも。」
百合から出るストレートな言葉。いつまでも慣れることなく、航の胸にくる。続けて百合は言った。
「あ、私、お弁当作ります。ピクニックです。」
「おー、楽しそうだな。行こう、花見。」
いつまでも笑い合う、航と百合。
先祖代々之墓 相原家
平野 亮 三十歳
〃 加波子 二十七歳