金の乙女は笑わない
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一週間後話し合いは決裂しトロイアがフィルタイトの国境まで攻め入ってきた。
まさかこんなに早く戦争を仕掛けてくるとは……。
戦争だけは避けたかったが仕方がない。
アランは急いで準備に取り掛かり、一通り準備が終わったころ部屋の戸から、控えめなノック音
が響く。
「はい」
そばに控えていたラルが戸を開けると、そこにはアイリスが立っていた。
「あの……ラル様」
「ラルとお呼び下さい」
くすりと笑ったラルは、思いつめた顔のアイリスを部屋に入れると、部屋から出て行った。
アイリスは、伏せていた顔をぱっと上げるとアランを見つめた。
「アラン様……私のせいです。また戦争が……」
「大丈夫だ。心配するな」
「でも私が帰るか……いなくなれば……」
アランがアイリスの言葉をさえぎる。
「だめだ!!そんなことはさせない」
「私が生きているのがいけないのです。悪魔として生まれてきた時から、民のため死ななければ
ならなかった。それなのに……自ら命を絶つこともできない……おろかな王女なのです」
泣き崩れるアイリスの肩をアランがつかむ。
「愚かなどではない!!死ぬことなど許さない!!人は生きることに執着するものだ。お前のよ
うにすぐに死ぬなどと……母マリアのため生きろ!!幸せになれ!!」
アイリスは青灰色の瞳に見つめられ動けなくなっていた。
「全身全霊をかけて俺がお前を守る!そして必ず幸せにしてやる。もう死ぬなんて言わせない」
この人は……。
青灰色の瞳の皇帝はいつも私の心に語り掛けてくる。
アイリスの瞳から嬉しいという感情から出る涙があふれていた。
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アラン達フィルタイト軍は王妃率いるトロイア軍のいる国境まで二日かけてやってきた。
アランはトロイア軍の位置を確認すると、少しずつ距離をつめるていく。
それを見ていたトロイア軍は近づいてくるフィルタイトの騎士に向かって矢を放った。
トロイア軍の後方では王妃と司祭長ジェローが余裕の笑みを見せていた。
「王妃様始まってしまいましたな」
「そうね。始まっちゃったわね」
その口調はどこか他人事の様だ。