金の乙女は笑わない
真実
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トロイアへ潜入していた騎士がアランの元へ例の物を持って帰ってきた。
アランは急いでそれに目を通すと、フッと口角を上げ「やはりな……」と呟く。
夜が明けたら決戦だ、これですべてが明らかになる。
アランは仮眠を取るため目を閉じた。
東の空が少しずつ白みがかってきた頃。
トロイア軍、フィルタイト軍のいる戦場に獣の声が鳴り響いた。
「ウォーーン」
狼の遠吠えのような声が響き、目が開いていられないほどの風が巻き起こると、螺旋状に風が渦巻いて行く。
吹き飛ばされないようアランが体を低くしていると、風がフッと和らいだ。
ゆっくりと目を開けると三メートルの獣とその前にはアイリスが宙に浮いていた。
エメラルドの宝石のような大きな瞳、金色に輝く長い髪、背中には白く透明な翼が生えていた。
翼は精霊ガイロが守護としている風の力によるものだ。
戦場に朝日が昇りだすと、風がアイリスの髪を後ろへと流し、キラキラと輝き戦場に天使が舞い降
りたかの様だった。
トロイア兵士も、フィルタイト騎士も神々しいアイリスの姿に目を見張っている。
「みなさん、戦いは止めてください!」
戦場にアイリスの声が響いた。アイリスは願いを込め両手を前へ差し出すと光の渦が集まりそれが空高くべと飛んでいきキラキラと兵士たちに降り注いだ。
風による癒しの力。
傷ついた兵士、騎士たちの傷と心を癒し、戦闘意欲を失わせていた。
そんな人々を見下ろしアイリスはアランの元へと急いだ。
「ガイロお願い」
アイリスはふわりとアランの元まで飛んで行くと、両手を伸ばす。
「アラン様一緒に来てください」
アランがアイリスの手を握り締めると、風が渦を巻き体に巻きついてきた。次の瞬間、体がふわ
りと浮き、王妃の元へと飛んで行く。
王妃の前まで飛んで行くと、王妃を守る兵士たちは一斉に剣を抜き、身構えるが空を飛んで来たアランやアイリス、三メートルのガイロを見てガタガタと震えだす。
そんな兵士をガイロは右の前足を振り上げ、風の力を使い後ろへ吹き飛ばすと、王妃と司祭長
の前には誰もいなくなった。
アランは一歩前へ出ると、威圧的に言葉を放つ。
「トロイア王妃、そして司祭長、お前たちの悪事もこれまでだ。覚悟はできているな?」
「まあ……ふふふ。覚悟ですって、笑わせてくれるわね」
「お前たちが今までアイリスにしてきた数々の仕打ち、わかっているだろう?」
「あーら何のことかしら?ねぇ司祭長?」
王妃と司祭長は何のことだかと笑っている。
「奇跡の金の乙女と言ったら分かるか?」
「ホホホ、そのおとぎ話が何だって言うの?」
「奇跡の金の乙女はただのおとぎ話ではない!長い年月を経て話が変わってしまったが、王家にも文献が
残っている。王家の人間なら、あなたも知っているはずだ。そして金の乙女の物語には続きがあ
る。千年に一度、精霊獣と供に現れ世界に平和をもたらす使者として記されていることも」
アランの話を聞いていた王妃の表情が固まっていく。