金の乙女は笑わない
「王妃、あなたは側室の子であるアイリスが邪魔だった。トロイアの王妃になったにもかかわら
ず、寵愛されたのは側室のマリア。その子供が奇跡の金の乙女なら更に自分の立場が弱くなる、そう思ったあなたは、マリアを殺しアイリスを悪魔の子とした」
王妃はわなわなと震えながらアランをにら見つける。
「何のことやら、証拠があるの?」
「証拠ならあるさ」
アランは王妃にアイリスの出生の秘密について書かれた書状をみせた。
「ふふふ、それは何?」
まだ余裕があるのか王妃は笑みを浮かべ、扇子をひらひらと仰いでいる。
「これは王妃から司祭長への書状だ。御神託により金の乙女が生まれることを隠蔽《いんぺ
い》し、ご信託を受けた巫女をアイリスの乳母として城の地下へ幽閉し、最後は殺した。アイリ
スを金の乙女ではなく、悪魔としたことも書かれている」
王妃は何も言うことが出来ず、下唇をかんでいたが、横から司祭長が声を上げた。
「アラン様これは誰かによる陰謀です。私達を貶めるために誰かが私の机の中に書状を入れたの
でしょう」
「ほう、これは誰かによる企みだと言うのか?」
冷たい口調で言うアランに司祭長が話を続ける。
「さようでございます。私たちは何も知りません!!」
「そうか……では、お前たちを貶めるため誰かが、机の中に書状を入れたと言ったが、俺は一言
も机の中に書状があったことは言っていない。なぜ机の中に書状があったと知っている?」
司祭長は自分が口を滑らせてしまったことに気づき「ぐっ……」っと喉を鳴らし、それ以上口を
開くことが出来なくなってしまった。
「それからこれは、トロイア王に出されている処方箋だ。わかるな……お前達がしてきた悪事についてこれから調査が入る、覚悟をしておくんだな!!」
王妃はふんっと鼻を鳴らすと、声高らかに笑い出した。
「オーホホホホ!!私の何が悪いって言うのよ。自分の地位を守っただけじゃない!!私は王妃なの
よ。私に従いなさい、従わない者は排除するだけよ!!」
何て身勝手な人なんだろう。
沢山の人を殺しておいて、自分のことばかり……。
今まで黙っていたアイリスだったが、ゆっくりと口を開いた。
「あなた達は、国の為ではなく自分たちの為に我がままをし過ぎました。その結果、国は荒れ沢山の人々が傷つく戦争まで起こしてしまった。償わなけばなりません」
アイリスの言葉に反応した王妃の顔が、般若の様な顔へと変わっていく。
今まであざ笑う様な口調だった王妃の口から、地を這う様な声がした。
「黙りなさい!悪魔の子が!!」
条件反射でアイリスがビクリと肩を震わせると、アランはアイリスを抱き寄せ、王妃に一喝し
た。
「黙れ!!すべてが明るみに出た以上、言い逃れは出来ない」
いつの間にか騎士団長のラルを先頭にフィルタイト軍の騎士達がやって来ていて、アランとアイリスの後ろを守る様に立っていた。
アランがラルに目で合図すると、騎士達が王妃と司祭長を拘束するため、近づいて行く。
司祭長はガックリと頭を下げ、抜け殻のようになっていたが、王妃は拘束しようとしている騎士に向かって、必死に抵抗し大声を上げていた。
「おのれーー!許さないわよ。悪魔の子ーー。アイリスーー許さない!アイリス……アイリ
スーー……」
騎士達の手によって馬車へ無理やり押し込められ王妃は、最後の最後まで悪態をつき、叫び声を
あげていた。それはもう、一国の王妃の姿ではなかった。