金の乙女は笑わない
事の一部始終を見ていたトロイア兵は、ポカンと口を開けたまま動けずにいた。
アランは王妃が馬車に押し込められるのを見届け、アイリスの腰に手を回したまま、ゆっくりと周りを見渡すと戦場に向かって、声を張り上げた。
「トロイアの王妃と司祭長は拘束した。戦争はこれにて終戦とする!!」
戦場にアランの凛とした声が響き渡ると「オーーーーーー!!」と言うフィルタイトの騎士達が雄たけびを上げ、反対にトロイアの兵士達はガクリと膝をついていた。
「アル、後始末を頼む。俺たちはトロイア城へと向かう」
「後のことは、お任せください」
アルは胸に手を当て騎士のポーズで一礼すると、周りの騎士達に指示を始めた。
アランの隣で話を聞いていたアイリスが首を傾げる。
「アラン様フィルタイトではなく、トロイアへ行くのですか?」
トロイアに良い思いでのないアイリスは心配そうにアランを見つめた。
「大丈夫だ、心配するな。気になることがある……確認に行くだけだ。ガイロ俺達をトロイアまで連れて行ってもらえるか?」
ガイロはコクリと頷くと、アランとアイリスに風の力を込める。二人の体に風がまとわりつき、螺旋状に渦巻くと空へ飛び立った。
アランとアイリスを乗せたガイロが城門の前までやって来ると、門番が戦闘態勢に入る。
「何やつだ!なっ……」
ガイロを見た門番は、精一杯の声を出しているが、体が震え鎧がガチャガチャと音をたてている。
「私はフィルタイト帝国皇帝アラン・フィルタイトだ。王妃と司祭長は拘束し、戦争は終戦した。
門を開けよ!!」
アランが威圧的なオーラを放ち睨み付けると、門番は急いで門を開けた。アランの威圧的オーラ
に逆らえる者はいない。
圧倒的オーラ。
頭を下げている門番を横目に城の中へと入って行くと、王の間へと向かう。
王の間には、王だけが座ることの出来る、金の大きな玉座にトロイア王が座っていた。
「お父様……」
アイリスが声をかけ近づいていくが、王は瞬きもせず一点を見つめたまま反応がない。
「……やはりな」
王の様子にアランは確信をもった。
「どういうことですか?」
何がやはりなのかアイリスには分からない。
いったいお父様はどうされてしまったの?
「王は薬を盛られている、人を操ることのできる薬なんだが、長期で使用を続けると、自分で体
を動かすことも出来なくなってしまうらしい。すぐに中和剤が必要だな」
アランはトロイアの宰相をを呼び出し、王の状態を医師に説明すると中和剤を頼んだ。
その後は宰相とトロイアの今後について話し合いを始め、王の意識が戻るまで、トロイアをフィ
ルタイトの支配下に置くことで、戦争は終止符を打つこととなった。
王に中和剤を使用し始めてから三日が過ぎ、時々ピクピクトと指を動かすことはあるが、目を覚
ます気配はなかった。
アイリスはほとんど休むことなく王の世話を続けている。