金の乙女は笑わない


*********


王の部屋から出てきたアランとアイリスは、朝食まで時間があったため庭を散歩することにした。

朝のすっきりとした空気を吸い込み吐き出すと、とても気持ちがいい。



アイリスはトロイアに戻ってきてから、ずっと思っていたことがあった。

それは、アランとの別れの日……。

アラン様はフィルタイトへ帰ってしまう。

ずっとここにはいられない。自分は所詮人質の身、アラン様と自分では釣り合いがとれない。

そんなことは、わかっていた……。

わかっていたのに……。

それでも、やさしくされるたびに、人質という事実から顔を背けてきた。

人質だからこの気持ちは伝えてはいけないと……。

それでも、アランへの気持ちがあふれ出してしまう。

いつの間にか心の中に入ってきたアラン様、子供のように意地悪をするアラン様、やさしい手を差し伸べてくれるアラン様。


そんなアラン様が大好き。

もう止められない。


アイリスは、ありったけの勇気を振絞りアランに抱きついた。

突然のことに驚いたアランだったが、両手でしっかりとアイリスを抱きとめた。


「私はアラン様が好きです。大好きです」


アランの胸に顔を埋め、恥ずかしさで顔を上げられずにいるアイリス。そんなアイリスにアランも答えた。

「俺もアイリスが好きだ」

アイリスが、ぱっと顔を上げるとアランの青灰色の瞳と目が合う。

「アラン様……」

ふっとアランが口元を緩め微笑むとアイリスの唇をふさいだ。

ついばむ様な甘い甘いキスに、うっとりと目をつぶり、二人だけの時間を楽しむ。

ゆっくりと目を開けるとアランが、アイリスを愛おしそうに見つめていた。あまりの恥ずかしさに、アランの両腕の服を握り締め、顔をアランの胸に押し当てた。

かわいらしい反応をするアイリスを抱きしめると、アランが口を開いた。

「俺はフィルタイトへ帰らなければならない」

その言葉にアイリスの肩がビクリと震えた。



嫌だ。

アラン様と離れるなんて……。


首を左右に振る。

「王が正気を取り戻した今、話したいことがあるだろう。しかし俺はアイリスと離れたくない。俺と一緒にフィルタイトへついて来てくれないか?」

アラン様も同じ気持ちでいてくれた。

嬉しくて、胸が熱くなる。

「はい。私もアラン様と離れたくありません。一緒にいさせて下さい」

二人は抱きしめ合い、決して離れないと誓った。



< 33 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop