金の乙女は笑わない
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王の部屋から出てきたアランとアイリスは、朝食まで時間があったため庭を散歩することにした。
朝のすっきりとした空気を吸い込み吐き出すと、とても気持ちがいい。
アイリスはトロイアに戻ってきてから、ずっと思っていたことがあった。
それは、アランとの別れの日……。
アラン様はフィルタイトへ帰ってしまう。
ずっとここにはいられない。自分は所詮人質の身、アラン様と自分では釣り合いがとれない。
そんなことは、わかっていた……。
わかっていたのに……。
それでも、やさしくされるたびに、人質という事実から顔を背けてきた。
人質だからこの気持ちは伝えてはいけないと……。
それでも、アランへの気持ちがあふれ出してしまう。
いつの間にか心の中に入ってきたアラン様、子供のように意地悪をするアラン様、やさしい手を差し伸べてくれるアラン様。
そんなアラン様が大好き。
もう止められない。
アイリスは、ありったけの勇気を振絞りアランに抱きついた。
突然のことに驚いたアランだったが、両手でしっかりとアイリスを抱きとめた。
「私はアラン様が好きです。大好きです」
アランの胸に顔を埋め、恥ずかしさで顔を上げられずにいるアイリス。そんなアイリスにアランも答えた。
「俺もアイリスが好きだ」
アイリスが、ぱっと顔を上げるとアランの青灰色の瞳と目が合う。
「アラン様……」
ふっとアランが口元を緩め微笑むとアイリスの唇をふさいだ。
ついばむ様な甘い甘いキスに、うっとりと目をつぶり、二人だけの時間を楽しむ。
ゆっくりと目を開けるとアランが、アイリスを愛おしそうに見つめていた。あまりの恥ずかしさに、アランの両腕の服を握り締め、顔をアランの胸に押し当てた。
かわいらしい反応をするアイリスを抱きしめると、アランが口を開いた。
「俺はフィルタイトへ帰らなければならない」
その言葉にアイリスの肩がビクリと震えた。
嫌だ。
アラン様と離れるなんて……。
首を左右に振る。
「王が正気を取り戻した今、話したいことがあるだろう。しかし俺はアイリスと離れたくない。俺と一緒にフィルタイトへついて来てくれないか?」
アラン様も同じ気持ちでいてくれた。
嬉しくて、胸が熱くなる。
「はい。私もアラン様と離れたくありません。一緒にいさせて下さい」
二人は抱きしめ合い、決して離れないと誓った。