金の乙女は笑わない
少し白髪の混じった気の強そうな年配の侍女は、アイリスに自己紹介をするため頭を下げた。
「私は侍女長のカリスタです。今後お会いする機会も多いと思いますのでお見知りおき下さい。そして、こっちにいるのがアイリス様の身の回りのお世話をするエイミーです」
エイミーは一歩前に出ると頭を下げた。
「アイリス様今日からよろしくお願いします」
にっこりとアイリスに微笑む。
エイミーはきれいな赤い髪にくりくりとしたアーモンド形の瞳がとてもかわいらしい侍女だ。
そんなエイミーにアイリスは、身の回りのことは自分でできると丁重に断った。
するとカリスタが「皇帝の指示です、従って下さい」と話を続ける。
「それに王女の世話という名誉ある仕事に就けて喜んでいたエイミーがかわいそうですよ」
エイミーを見ると心配そうにアイリスを見つめていた。
「アイリス様、私では至らない点が沢山あると思いますが、一生懸命お世話するので、そばにおいて下さい」
涙目で訴えるエイミーがぺこりと頭を下げたため「エイミーさん、私……、ごめんなさい。」とアイリスも頭を下げた。そのアイリスの姿に侍女達は目を見開き固まっている。
本来王族が頭を下げることなどない、こちらが頭を下げる立場だからだ。
エイミーは驚きアイリスを見ていたが、ハッと我に返り声をあげた。
「アイリス様!頭を上げてください。王族が侍女なんかに頭を下げる必要はありません。それにエイミーで結構です。さんはいりません」
「それでは私のこともアイリスって呼んでもらえる?」
顔は無表情だがこてんと首をかしげる。
「い……いけません!アイリス様はアイリス様のままです」
エイミーの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「そう……」
かくんと頭を下げたアイリスを見てエイミーの顔が更に赤くなった。
そんな二人を見ていたカリスタが「ごほん」と咳払いをした後、きりっとした態度で話を進める。
「とりあえずエイミー、アイリス様のことお願いしますよ」
そう言うと他の侍女達を連れて部屋から出て行った。