となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 忙しかった。昼間は飛び回り、夜は気の進まない接待。

 マンションに戻ると、すぐに友里の眠るベッドに向かう。そっそ頬をなでキスをする。
 ここに友里が居て、触れる事にどれだけ俺は救われているだろうか?

 風呂から出ると、そっとベッドにもぐり友里を引き寄せる。友里はそんな事にも気づかず、スースーと穏やかな寝息を立てている。



 朝、友里に肩を揺すられ目を覚ます。朝にしては手の込んだ、それでいて胃に負担にならない朝食が用意されている。

 嬉しい…… でも、仕事の疲れが取れない。

 友里とゆっくり出来ない、いや、抱けないストレスも募っていく。


 それなのに、神は俺にまたしても試練を与えた。
 アメリカ出張だ。アメリカでのリゾート解発についてだ。大きな仕事だ。分かっている。
 でも、二週間だ……
 友里も連れて行こうかとさえ思った。山ノ内建設のおじさんに頼んで、友里に休暇をもらおうかと本気で考えた。


「来週から、アメリカに出張になる」

 友里はどうんな反応をするだろうか?
 一緒に行きたいと言えば、連れて行ってしまえばいい。

 

「ええーーー うん。どのくらい?」

 友里は驚いて、悲鳴に近い声を上げたが、すぐに表情を戻した。


 
「二週間はかかると思う」

 

「そう…… 気を付けてね」



 俺は、悲しかった……
 二週間だぞ、二週間。会えなくてもいいんだ……
 俺なんて……



「ああ……」

 ガックリと沈んだ肩をそのまま頷いた……
 
 
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