となりに座らないで！～優しいバレンタイン～

　あれ？　どうしたんだろう？
　見上げているはずなのに、目から何かが落ちてくる。


「なに、泣いてるんだ……」


　動揺してる一也の手が、頬を支え親指でぐっと涙を拭った。
　全く、乱暴なんだから……　でも、一也の手は優しくて暖かい……


「わかんないけど……　」

　あれーーー　
　次から次へ、涙が落ちてくる。


「あのなー。友里の目はでかいんだ。涙の量も多いんだから、すぐ泣くな！」


　うん、うん。
私は、ただただ頷いた。



　電車で帰ろうと思っていたけど、私が泣いたせいか？　そもそもそのつもりだったかのか？一也は、近くに止まっていたタクシーに私を押し込むように乗り込んだ。



　しばらくすれば、涙も落ち着いてきた。


「ねえ。仕事、忙しいんじゃないの？　大丈夫なの？」


　私の肩を抱く、一也の顔を見た。


「まあな……　それより友里、来週から一緒にアメリカ行かないか？」


「はあ？　私にも一応仕事があるんですけど」

　私は、呆れて小さくため息をついた。



「いいじゃん。俺がおじさんに頼むからさー」


　この人、本気なんだ……


「ばか言わないの！」


「二週間もだぞ！　俺は耐えられん……」


「あっ！」

　私はグイっと、一也の顔を見上げた。


「なんだよ？」



「私、パスポート持ってないわ」


「はあ？　そんなもん、持っておけよ！」


「必要なかったから仕方ないでしょ」


　一也が肩を落とし、一気に気落ちしたのが分かる。
　私は、そっと一也の頬に手を当てた。


「大丈夫。ちゃんと待っているから……」