溺愛の価値、初恋の値段
「飛鷹くん、どうやってわたしのお父さんを探し出してくれたの? お母さんといつの間に、わたしの名前の話をしていたの?」
「クリスマスだよ」
「クリスマス……?」
「海音が、俺のクリスマスプレゼントをぜんぜん喜ばなかった日」
紙袋いっぱいの参考書を貰った日のことを思い出す。
あの頃の飛鷹くんは、本当に……鬼のようだった。
「アパートの近くで待ち伏せされて、『うちの娘をたぶらかしてるのは、おまえかっ!』って、いきなり路地裏に引きずり込まれた」
「…………」
お母さんは、普段はおっとりニコニコしていたけれど、怒るとものすごく怖かった。
わたしが幼い頃は、悪いことをしたり、言いつけを守らなかったりしたら、般若のような顔でガミガミ叱っていた。
「俺が袋いっぱいの参考書を抱えているのを見て、すぐに謝ってくれたけど……海音が妊娠するような真似をしたら、タダじゃおかないって釘を刺された」
「お母さんはずっと……わたしたちがアパートで会っていたのを知っていたってこと?」
二人だけの秘密のはずが、バレバレだったと知って、わたしは驚きと奇妙な恥ずかしさに襲われた。
何もかも知っていて、それでも知らぬふりをしてくれたことはありがたいけれど……思春期真っ只中の男子中学生に対して、容赦なさすぎる。
「釘を刺されたから、キス以上のことはできなかった。でも、海音はまるで警戒心なくて、平気で素足に短いスカートとか穿くし……」
「ゴメンナサイ……」
「まあ、いろいろと妄想ではお世話になったけどね」
「え?」
にっこり笑う飛鷹くんに、どんな妄想なのか訊いてはいけない気がした。
「咲良さんは、海音の作るオムライスのレシピは海音の父親のものだって教えてくれた。とても料理が上手で、優しくて、かっこよくて、憧れの人だったってね。だから、海音にはその人の名前をもらったと言っていた。海音を呼ぶたびに彼のことを思い出せるし、海音にも彼のように自分の夢を叶えてほしいからって」
さんざん泣いたはずなのに、また涙が滲んできて、わたしは飛鷹くんの広い胸に顔を埋めた。
「海音の父親が音無さんだということは、名前と裏メニューのオムライスの話から、すぐに見当がついた。店の名前も『SAKURA』だし。でも、誰一人として、彼と咲良さんとの関係は知らなくて……なかなか確信が得られなかった。店に直接行くしかないと思ったものの、予約は三か月先まで埋まっているし、オムライスは普通に予約するだけでは食べられない。だから、ロメオを通して、ちょうど日本に滞在していたジェズに頼んだんだ。彼の大事な友人だということにして、予約してもらった」