溺愛の価値、初恋の値段
飛鷹くんが、忙しい中時間を割いて、骨を折ってくれたのだと知って、申し訳なくなった。
それなのに、あろうことか飛鷹くんはわたしに謝った。
「俺がもっと早く動いていれば、海音と音無さんは十年前には会えていたんだ。……遅くなって、ごめん」
「そ、んなっ! 飛鷹くんが謝ることなんかないよっ!」
「ある」
「ない」
「ある」
「ないよ!」
「あるんだよっ! 俺はっ……」
それまで、険しい表情をしていた飛鷹くんが、泣きそうな顔をした。
「海音は……俺に言いたいこと、ない?」
飛鷹くんが、彼とまったく会わなくなったわたしのその後について、いつから、どこまで把握しているのかは、わからない。
お母さんが死んでしまったことを知っているのなら、わたしがどんな暮らしをしてきたのかも知っているのかもしれない。
わたしがあの三百万円を返したことも。
自分からそのことを訊ねようとは思わなかった。
三百万円を返したところで、わたしの罪がなくなるわけではない。
実際に、あの時、あのお金を使ってしまったのだから。
何を言おうとも、言い訳にしかならない。
でも――。
「言いたいこと、あるよ」
飛鷹くんのおかげで高校へ行けたし、卒業することもできた。
初詣にも、お花見にも行けた。
中学生の時の楽しい思い出は、みんな飛鷹くんがくれた。
ずっと言おうと思っていて、言えずにいたことがある。
「ありがとう」
「…………」
わたしを見上げる飛鷹くんの表情は、晴れないままだ。
言葉では伝わらないのなら、行動で示すしかない。
わたしは、強情そうに引き結ばれた唇にキスをした。
どんなふうにすればいいのかなんて知らないから、二度、三度と唇を重ねた。
飛鷹くんは、じっとしてわたしの好きなようにさせていたけれど、四度目に唇を重ねたわたしを抱きかかえたまま、転がった。
キスが深くなるにつれ、お互いを遮るものが邪魔になる。
恥ずかしさもためらいもなく、素肌をさらし、自分のものではないぬくもりを抱きしめる。
昨夜は、何がなんだかわからないまま、未知の世界に放り込まれた。
自分をコントロールできず、相手のことを考える余裕なんかなかった。
けれど……今夜は、昨夜とは違った。
一つ一つ、お互いの反応を確かめ、探りながら、同じことを感じたいと思っている。
再会してから一緒に過ごした時間は、中学生だった頃に比べれば、遥かに短い。
それなのに、あの頃よりも近くにいると感じる。
もっと知りたいと思う。
大人になったからなのか。
欲張りになったからなのか。
「……海音」
苦しげな声で呼ばれ、落ちかけていた瞼を引き上げた。
「海音は、俺が傍にいても……いやじゃない?」
真顔で尋ねられ、目を瞬く。
どうしてそんなことを言い出したのか、わからない。
「いやじゃないよ」
わたしは、腕を回して、自分よりも大きな身体を抱きしめた。
「ぜんぜん、いやなんかじゃないよ」