溺愛の価値、初恋の値段
「んー、今日ハ、いい日ダネ! ビジンふたりト、お茶ヲ楽しめるナンテ!」
「…………」
ロメオさんのお父さんは、いかにもロメオさんのお父さんらしく、ロメオさんそっくりだった。
つまり……陽気で、気さくで、女の人に優しい。
わたしが訊くまでもなく、ジェズアルドさんは諸々の事情となれそめを語ってくれた。
◆
ジェズアルドさんは、息子のロメオさんの友人でビジネスパートナーである飛鷹くんを以前から知っていた。
けれど、飛鷹くんのお母さん――由紀子さんと知り合ったのは、まったくの偶然だ。
自分の母親が営むレストランに、ワケアリっぽい女性客が年に数回やって来るという話を聞いて、気にはなっていたものの、どんな人物か確かめられずにいた。
いつ来るかもわからない相手をのんびり待ってはいられない、超多忙な日々を送っていたし、「今日来ているよ!」と何度か連絡をもらっても、なんだかんだと用事があって、長い間、謎の女性は謎のままだった。
ところが――。
ちょうど二年ほど前、ジェズアルドさんのお母さんがひどい風邪を引いてしまい、お店を手伝いに行ったその日。
飛鷹くんのお母さんが来店した。
最初は、ほとんど何も話せなかったという。
でも、ようやく出会ったことで運命の歯車が回り出した。
急に何かが起きたり、ちょっとした用ができたりして、ジェズアルドさんがお母さんのお店に行くと、必ず飛鷹くんのお母さんが現れる。
助っ人シェフと常連客として顔を合わせているうちに、少しずつ会話する時間が長くなり……二か月前、ようやく彼女がお店にやって来る理由を聞き出すことに成功した。
ジェズアルドさんは、彼女が息子と絶縁状態だということに心を痛め、その息子が飛鷹くんだと知って、強硬手段に出た。
飛鷹くんを店に引きずって来るよう、ロメオさんを脅したのだ。
彼が大切にしている日本の時代劇のDVD(すでに廃盤)を人質にして。
「空也は、わたしの話を聞いても半信半疑だったわ。でもね……あなたがくれたレシピでジェズが作ったオムライスを食べた途端、日本に帰るって言い出したのよ」
「空也、ボクのツクッタの『オイシクナイ』ッテ、イッタンダヨ! ボク、一流シェフナンダケドっ!」
ジェズアルドさんと飛鷹くんのお母さんは顔を見合わせて、苦笑いした。