溺愛の価値、初恋の値段
「最初、空也の帰国は、せいぜい一、二週間の予定だった。でも……わたしが話したことを自分自身で確かめて、このまま日本を離れられないと思ったのね、きっと。日本で事業を展開することなんか、まったく考えていなかったはずよ。急にそんなことを言い出して……本社のメンバーにもロメオにも、かなり負担をかけているようだし」
どうして、そんなことまでして日本に残ろうと思ったのか。
そもそも、わざわざ帰国しなくても、電話なりメールなり、いくらでも事実を確かめる方法はあったはずだ。
わたしが、よほど腑に落ちない顔をしていたのだろう。
二人に苦笑された。
「空也は、あの日以来、あなたからも……自分の気持ちからも、目を背けていた。でも、帰国して、十年ぶりにあなたに会って、あの時の事情を知って……ただ謝るだけでは、足りない。あの時、自分がすべきだったことをしなくてはならないと考えたんだと思うの」
飛鷹くんは、謝る必要も、償う必要もない。
わたしは、首を横に振った。
「あの時、空也があなたにしたことやしなかったこと。空也が言った言葉、言わなかった言葉。あなたを傷つけた空也の行動は、全部わたしのせい。だから……どうか、許してあげてくれないかしら?」
「許すも許さないも……あの時、お金を受け取って、使ったのは事実ですから」
「でも……」
本当にそう思っているのだと信じてほしくて、わたしはまっすぐ飛鷹くんのお母さんを見つめて告げた。
「わたしだって、飛鷹くんを傷つけた。だから、彼を恨むとか憎むなんて、お門違いですし、考えたこともありません。実際、あのお金がなかったら、わたしは母に何もしてあげられなかった。いまごろお礼を言うのは遅すぎるかもしれませんが……ありがとうございました」
飛鷹くんのお母さんは、少し驚いた顔をして。
それから、眉尻を下げて、悲しそうに笑った。
「責められるより、お礼を言われるほうが堪えるわね」
「あ、のっ……嫌みとかじゃなくて、本当にっ……」
責めるつもりなどまったくない。
誤解されたくないと慌てるわたしに、ジェズアルドさんが言った。
「アマネちゃんがユルスベキヒトは……由紀子デモ、空也デモ、ナイね」
どういう意味なのか、答えを求める視線を送るわたしに、ジェズアルドさんはニッと笑った。
「アッ!……もう、六ジ! ボクはイマ、モノスゴーク『鉄板焼き』ガ、食べタイ! 行くヨ! アマネちゃんっ!」