溺愛の価値、初恋の値段
「俺、とりあえず謝るやつ、ムカツクんだよね。コトナカレ主義って言うの? 謝っておけば、相手もいやな思いはしないっていう謎の理論に、ぜんぜん納得いかないんだけど」

「え、でも、普通は、謝られていやな思いはしないんじゃない……かな?」


とりあえず一般論を持ちだしてみたけれど、即座に言い返される。


「普通って、なに? なにを普通って言うの? 俺の考える普通と、あんたの考える普通は同じじゃないよね? だって、別々の脳みそだし」

「そ、それは、そうだけど」

「そうだけど、なに? 続きは?」


彼ほど頭の回転が早くないわたしは、せっつかれて混乱した。
もともと、瞬時に自分の考えをまとめることが苦手なのだ。


「え、えっと……」

「だから、『だけど』は逆接なんだから、反対の内容が来るでしょ? なにが言いたいわけ? 早くして」


コトナカレ主義第一のわたしは、このままうやむやにして逃げ出したかった。

けれど、「なんでもないです」と言っても、さらに問い詰められるのはまちがいない。

ダラダラと流れる冷や汗。刻々と暮れゆく空。

時間が欲しいと切に願った時、「かぁー」というカラスの鳴き声でひらめいた。


(そうだ! 飛鷹くんがイライラしているのは、お腹がすいているからでは?)


「あの、オムライス……好き?」


目を見開く飛鷹くんに、手にしたスーパーの袋を示す。


「これから、晩ごはんにオムライスを作るんだけど、卵いっぱい買ったから、飛鷹くんも食べない?」

「…………」


飛鷹くんのお腹が「ぐうぅ」と鳴った。
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