溺愛の価値、初恋の値段
リビングへ現れた飛鷹くんは、顔色が悪いせいか疲れているように見えた。
二日酔いなのかもしれない。
昨夜からぐちゃぐちゃの頭の中は、まだ整理がついていない。
どんな顔をして、どうやって、何から訊ねるべきか、ぜんぜん考えがまとまっていなかった。
無理やり笑みを貼り付けた顔で出迎える。
「おかえりなさい」
「……ただいま」
スーツ姿のまま、ソファーに身を投げ出すようにして沈み込んだ飛鷹くんは、大きく息を吐いて腕で目元を覆う。
「お酒の飲みすぎ?」
「……ん。昨夜……気持ち悪くて帰れなかった」
「誰かの家に、泊まったの?」
「いや、ホテル。ちょうど、ホテルのバーで飲んでたから……」
(やっぱり、あの後ろ姿はそうだったんだ……)
ズキズキと胸が痛み出す。
「飲みすぎるくらい、楽しかったんだ?」
「まあね……気心知れたヤツだから。お互い、思ったほど変わっていないし。結局、肝心な話がほとんどできなかったから、今夜も会うことになった」
「……そう、なんだ」
みぞおちのあたりが急に重苦しく感じられ、吐き気がした。
葉月さんと、また会うのだろうか。
同じ場所で。
同じ部屋で。
「飛鷹くん、わたし……出かけるね。お昼は作っておいたけど、食べられそうになかったら残していいからね?」
雅との待ち合わせには、まだ十分余裕がある。
でも、これ以上会話を続けていたら何かとんでもないことを言ってしまいそうだった。
「……出かけるの?」
寝転がっていた飛鷹くんが、わずかに上体を起こす。
目が合いそうになって、思わず逸らしてしまった。
「雅とランチに行くの。晩ごはんいらないなら、わたしも雅と食べようかな」
「ああ……いらないけど……」
「じゃあ、行くね」
あたふたと鞄の中身を確かめ、玄関へ向かおうとして、大事なことを伝え忘れたことに気づいた。
「あ、飛鷹くん」
「……なに?」
「昨日、飛鷹くんのお母さんに会ったよ」
「え」