溺愛の価値、初恋の値段
あっさり返す征二さんには、驚いた様子がまったく見受けられない。
「もしかして……知ってたんですか? 誰が、わたしのお父さんか」
「知らなかったよ。京子は、咲良さんが『誰か』と付き合っていることは知っていたみたいだけど。アリバイ作りに協力していたから」
「だから……」
(京子ママが、お母さんとわたしの面倒を見てくれていたのは……お母さんと音無さんの関係を後押ししてしまった罪悪感からなんじゃ……)
そんなわたしの考えを征二さんはきっぱり否定した。
「海音ちゃん。罪悪感だけでは、どんな関係も長く続けることはできないよ。京子は、咲良さんが本当に好きだったから、応援していた。海音ちゃんのことも大好きだから、かわいがっている。ただ、それだけのことなんだよ。ね?」
「……はい」
「さあ、どうぞ」
にっこり笑って征二さんが出してくれたのは、ハートのラテアートが描かれたマキアート。
ひと口飲んで、ほっとした。
苦さと甘さがちょうどいい、と感じて、目を瞬く。
(苦い……? 甘い……?)
「どうかした? 海音ちゃん」
「いえ……」
カップをソーサーに戻し、ハートの名残を見つめていたら、雅の声がした。
「こんにちは! 征二さん」
「雅ちゃん。今日は、お仕事お休み?」
「はい。だから、海音とランチしようと思って」
征二さんに「おまかせで!」と注文した雅は、わたしの隣に腰を下ろし、にっこり笑った。
「なんだか久しぶりに、明るいうちに外に出た気がするわ……」
ひとしきり相変わらずの激務を嘆いた雅が、さらりと尋ねる。
「で、何があったの?」
雅も、征二さんと同じ。隠し事の通用しない相手だ。
「ちょと、確かめたいことがあって」
事故について、一番よく知っているのは雅だ。
「何かしら?」
「わたしが病院に運ばれた時のことなんだけど……」
口を開きかけ、ふと彼女の薬指にあるものに気がついた。
控えめなデザインではあるけれど、その輝きから一級品とわかるダイヤモンドの指輪が光っている。
「雅。それ、婚約指輪?」