溺愛の価値、初恋の値段
カフェオレを飲む雅の顔が、真っ赤になった。
「……うん。仕事中はしていないんだけど、病院を一歩出たら絶対着けるように、言われてる」
雅は、ロメオさんの束縛と妄想と暴走でしかない、様々な掟を聞かせてくれた。
男性と話すときは三秒以上目を合わせてはいけないとか。男性に笑いかけるのは一日三回までとか。男性とは電話ではなくメッセージ(しかもスタンプ抜き)でやり取りすることとか。おしゃれをして出かけるのは、ロメオさん同伴の時に限るとか。
科学的医学的根拠を交えて理由を説明されるため、簡単には逆らえないらしい。
(頭がいいって…………かなり、めんどくさい)
「聞こえてるわよ、海音」
「あ……ゴメンナサイ」
「それで? あんたが病院に担ぎ込まれた時のことで、何を聞きたいの?」
「わたし……飛鷹くんの乗っていた車に轢かれたと思ってたんだけど……本当は、自分で転んだだけだったの?」
雅は呆れ顔で溜息を吐いた。
「いまごろ気づいたの? 車に轢かれて、おでこぶつけた程度で済むわけないでしょ? もしかして、あの男が海音を囲うためだけに言った、口からでまかせを本気で信じてたの?」
「でも、契約書もあって……」
「適当なことを小難しく書いて並べただけでしょ。全部読んだ?」
「……イイエ」
「あんたが、これまで詐欺に引っ掛からずにいられたのは、奇跡ね」
「……オッシャルトオリデス」
「あの時は、海音の体調が良くなるまで、誰かが面倒を見るということで全員の意見が一致したの。当然、風見さん――京子さんが海音を引き取ると言ったんだけど、俺様で暴君の『飛鷹くん』が、どうしても自分に預けてほしいって、平身低頭でお願いしたのよ。万が一、彼が預かっている間に海音の身に何かあった際には、莫大な慰謝料を払うと弁護士に説明させてまでね」
ふうっと息を吐き、雅は眉根を寄せた。
「わたしは、反対だった。でも、征二さんが賛成したの。いまの海音には、日本人らしい細やかな気遣いが、余計負担に感じられるだろうからって。その点、俺様で暴君の『飛鷹くん』なら、海音の遠慮なんか一蹴するだろうし、外国人の同居人がいれば、二人のクッションになってちょうどいいだろうって。わたしも、その意見には賛成だった」
雅は、テーブルに着いた新たなお客さんのオーダーを取っている征二さんをちらりと振り返った。
「でも……預けてすぐに、海音の具合が悪くなったと聞いて、判断を誤ったと思ったわ。焦ってわたしに電話して来て、ちゃんと謝ったから許してやったけどね」
「…………」