溺愛の価値、初恋の値段
「海音が、どうしてあんな男がいいのかさっぱり理解できないけれど……ちょっとくらいは信じてあげてもいいかなと思っている。あの外見からは想像がつかないけれど、一途なんでしょ? そうじゃなきゃ、十年も前に別れた彼女の写真を壁紙にはしないわよ」
「それは……着物が好きなだけかも……」
「本気で言ってるの? ロメオが言ってたわよ。空也は絶対…………。昼間から話すようなことじゃなかったわね」
なぜか、雅は赤面して口ごもった。
「再会してひと月も経っていないから、海音が混乱するのもわかるけれどね。でも、いい加減な気持ちで一緒に暮らしたいなんて言わないわよ、普通は。しかも、親代わりの風見さんに頭を下げて、何かあったら慰謝料も払うなんて。ものすごくいけすかない男だけれど……誠実なんだと思う」
「うん……」
飛鷹くんは、婚約者や恋人がいるのに、意図してほかの女性と親密な関係になるような人ではない。
わたしに、葉月さんと婚約はしていない、出回っている記事は事実無根だと説明してくれたのは、嘘を吐き、ごまかすためではない。
そんなことができる人ではない。
雅の言うとおりだ。
わかっている。
わかっているのに、昨夜見た二人の姿や電話で聞いた葉月さんの言葉に、心が揺れる。
沈黙するわたしが、彼女に言えないことを抱えていると気づいている雅は、一つ溜息を吐いて、急に話題を替えた。
「ところで……ロメオ経由で聞いたんだけど、実のお父さんが見つかったそうね?」
「うん。飛鷹くんが探してくれて、ロメオさんのお父さんも協力してくれたの」
実の父親である音無さんと会った時のことを話すと、雅は「話を聞いただけでも、音無さんと海音は似てると思うわ」と言って笑った。
「雅だって、羽柴先生と似ていると思うけど」
「ロメオもそう言ってたわね」
雅が、ロメオさんと会った時の羽柴先生のうろたえ嘆きぶりなどを面白おかしく話すのを聞いているうちに、わたしの落ち込んでいた気分も、少しばかり浮上した。
「雅は、結婚したいと思うほど、ロメオさんのことが好きになったんだね?」
「……だと思う」
顔を真っ赤にしてぼそっと呟く雅は、かわいらしかった。