溺愛の価値、初恋の値段
講師紹介のページに、フレンチの特別講師として音無さんの写真が載っていた。


(こんなことも、してるんだ……)


「イケメンで料理人って、ステキすぎる……。ね、プライベートでお料理作ってほしいってお願いしてみたら? オムライスじゃなく、本格フレンチ」

「え。そんなこと言ったら、図々しいって思われる……」

「馬鹿ね! そんなわけないでしょ。料理人なんだから、自分が作ったものを食べてくれるのは、嬉しいはずよ? もしくは、一緒に作るとか。教えてもらったら?」

「味がわからないのにお願いするのは、申し訳ないよ……」


音無さんの作るフランス料理を食べてみたいし、一流シェフの技がどんなものなのか気になる。

でも、一生懸命作ってくれたものを味わえないのに、そんなお願いするのはとても失礼じゃないかと思う。

雅はひとつ溜息を吐いて、パンフレットを封筒へ戻した。


「ねえ、海音。今度は事務じゃなく、好きで、興味がある仕事にすれば? 海音に、事務の仕事は向いてないと思う」

「そうかもしれないけれど、好きなことも興味があることもないし……」

「海音、調理師になりたいって言ってたわよね?」


高校時代からの付き合いである雅は、わたしがまだ料理が好きだった頃のことを知っている。

わたしが、叶えられなかった夢のことも。


「それは、昔の……」


雅は、まっすぐわたしを見つめて微笑んだ。


「わたし、海音の作るお料理が好きよ。昔も、今も。海音が作ってくれたお料理を食べると、なんだか元気になれるのよね。きっと、飛鷹くんもそう思っているんじゃないかしら?」

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