溺愛の価値、初恋の値段
オムライスとスープをテーブルの上に並べ、向かい合って座る。


「いただきまーす!」


作っている最中から、わたしのお腹はぐうぐう鳴っていた。

スプーンいっぱいに頬張ろうとして、飛鷹くんがオムライスを凝視していることに気づく。


「あの……どうしたの?」

「なんで、ハートマークなわけ? しかも、おそろいだし」


眉根をぎゅっと寄せた飛鷹くんの言葉に、わたしは首を傾げた。
食べるのをためらうほど、重要なこととは思えない。


「なんとなく? かわいいし。ね、テレビ見てもいい?」

「……いいけど」


飛鷹くんは、なぜか顔を赤くしながらオムライスにスプーンを突き刺した。

そのまま無言で食べる。

どうやら、お口にあったらしい。

ほっとして、テレビを見ながら半分ほど食べ終えたところで、飛鷹くんがぼそっと呟いた。


「おかわりないの?」

「え」


飛鷹くんはすでにオムライスを完食していた。


(早っ!)


「ご、ごめん、足りなかった? でも、あの、もう、ごはんなくって……」


つい自分やお母さんが食べる分量で作ってしまったけれど、育ち盛りの中学生男子には足りなかったのかもしれない。

できればおかわりを用意してあげたいけれど、冷凍ごはんはもうないし、これからお米を炊いたとしても最短で三十分はかかってしまう。


「えっと、でも、おかずなら作れるかもしれないから……」


わたしが、あたふたと頭の中ですぐできるレシピを検討していると、飛鷹くんは再びぼそっと呟いた。


「……じゃあ、また作って」

「え、いつ?」


驚きのお願いに、思わず問い返す。


「同じ曜日……来週の金曜日。ちゃんとお金払うし。ダメ?」

「だ、ダメじゃないけど、お金はもらえないよ。お店じゃないし」

「タダめしはダメでしょ」

「でも……」

「一方的にあげたり、もらったりする関係って続かないから、ギブアンドテイクがいいんだよ。お礼に何かする」


これは続くような関係なのか? と疑問に思ったけれど、頭のいい飛鷹くんが言うことなら正しい気がする。


「お礼……」


すぐには思いつかず、首を捻る。


「お皿洗うから、その間に考えておけば?」

「え、いいよ! わたしが洗う」

「あのさ、ギブアンドテイクって言ったよね?」


ひと睨みでわたしを黙らせた飛鷹くんは、お皿を台所へ運び、洗い始めた。


(お礼……飛鷹くんにしてほしいこと……)


何かないかと視線を巡らせ、床に置かれた教科書に目を瞬く。
表紙には、四字熟語のような文字が書かれている。


(こんな教科、あったっけ……?)


「えっと……だい、かず、いく、なに……?」


そおっと開いてみると数字がいっぱいで、ぞっとして慌てて閉じた。 


「代数幾何だよ。数学好きなの?」


いつの間にかお皿を洗い終えた飛鷹くんが、謎の教科書を取り上げた。
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