溺愛の価値、初恋の値段
月曜日の決着
不在にしていたせいか、部屋の空気は少しひんやりしていた。
一応、オートロックではあるけれど、飛鷹くんのマンションや音無さんのマンションとは大違い、1LDKの狭い部屋だ。
(いままでは、狭く感じたことなどなかったのに……)
人間は、どんな環境にも慣れてしまうものらしい。
エアコンを付け、音無さんと約束したように、浴槽にお湯を張ってゆっくり浸かった。
シャンプーを始めとした生活用品のほとんどが、いまでは飛鷹くんのマンションにあるものの、試供品や買い置きしてあったもので事なきを得た。
お風呂から上がり、ドライヤーで髪を乾かす。
風の音が止むと部屋の中は、しんと静まり返った。
静かで、誰の気配もしない。
いま、自分はひとりなのだと思うと、たまらなく寂しくなった。
小さい頃から、ひとりでいることに慣れていた。
飛鷹くんと同居し始めてから、まだひと月も経っていない。
それなのに、誰かの存在を感じながら暮らすことに、慣れてしまった自分がいる。
当たり前にならないように、気をつけていたつもりだ。
いつか終わるとわかっていたから。
でも、本当は……。
泣くつもりなどなかったのに、涙があふれた。
夕方に出かけるお母さんを見送る時、いつも笑って見送るようにしていた。
一緒にいて欲しいとねだったら、お母さんを困らせるだけだから。
お母さんが自分と一緒に過ごしてくれる時には、目一杯楽しむことにしていた。
わたしは、わたしに許された時間だけで、満足しなくちゃいけないと思っていたから。
でも、
本当は、寂しかった。
ちっとも、満足なんて、できなかった。
飛鷹くんのことだって。
どこで誰と何をしようと、わたしには問い詰める権利もなければ、傷つく権利もない。
そう思っていても、本当はいやだった。
わたし以外の人と、キスしてほしくなかった。
わたしの知らない匂いを纏い、わたしの知らない顔をして、わたしの知らない姿を、わたし以外の女の人に見せてほしくなかった。
友だちでも、恋人でもない、あいまいな関係のままで、いたくなかった。
大人になって欲張りになったわたしは、秘密の関係では満足できなくなっていた。