溺愛の価値、初恋の値段
傍にいたかったのは、償いのためなんかじゃない。

好きだから。

あの頃、二人で食べたオムライスがの味がわからなくなってしまっても。 
優しい思い出がみんななくなってしまっても。

もう、わたしのことは、好きじゃなくても。



飛鷹くんを好きな気持ちは、消えなかった。


 
夜、眠るまで。
朝、目覚めても。

同じ空間にいて、
一緒にごはんを食べて、
手を伸ばせば届く距離にいて、
キスをして、抱き合って、一緒に眠りに落ちる。

手を繋いで散歩したり、映画を観たり。
おしゃれなレストランでディナーを食べたり、ちょっとした旅行をしたり。
普通の恋人同士がするように、クリスマスもバレンタインも、イベントは全部制覇して。

そんなふうに過ごしてみたかった。

言いたいことはないのかと問われ、「ありがとう」と言ったのは、嘘の気持ちじゃない。
でも、言いたかったことは、それだけではなかった。


(飛鷹くんに、言いたいこと……たくさんある……)


床に座り込んで、ぐずぐずと泣いていたわたしの耳が、バイブレーションの音を捉える。
鞄の中に入れたままだったスマートフォンを取り出すと知らない番号が表示されていた。

無視しようかと思ったけれど、知らない番号だからこそ気になった。


「もしもし……」



『海音さん?』



「はい……」







『葉月です』


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