溺愛の価値、初恋の値段
「まさかっ!」
ほとんどの科目が苦手ではあるけれど、数学は中でも一番苦手だ。
「じゃあ、なんの教科が好きなの?」
「え……家庭科」
「きらいな教科は?」
「え……家庭科以外、全部?」
飛鷹くんは、「はあ……」と溜息を吐くと、いきなり話題を変えた。
「あのさ……眼鏡しなくても、見えんの?」
「うん。わたし、視力はいいんだよ。両目とも一・五!」
思わず自慢した途端、ツッコまれた。
「じゃあ、なんで眼鏡してるの? する必要なくない?」
「え……っと……ひ、必要……ある」
「どうして?」
「え……眼鏡すると、勉強好きで、勉強できるみたいに見えるから」
「勉強好きなの?」
「きらいだけど……」
「つまり見かけ倒しってこと? もしかして、三つ編みとか、校則どおりの制服とかも全部、勉強好きに見せかけるため? 眼鏡かけてて、おしゃれに興味なくても、勉強が好きとは限らないし、ましてや勉強できるようにはならないよね?」
「うっ……」
言葉に詰まるわたしに、飛鷹くんはさらに追い打ちをかける。
「ちなみに、いままでのテストで最高順位って、何番?」
「え……に、二百九十八番……デス」
飛鷹くんは、驚愕の表情で固まった。
わたしたちの学年の生徒数は全部で三百名。つまり、下から数えたほうが早い。
「高校行かないつもりなの?」
「え。行きたい……けど」
高校を中退しているお母さんの口癖は「高校だけはぜったいに卒業しなさい。できれば大学も」だ。
「どこの高校行くつもり? 公立? 私立? いずれにしても、二百九十八番の成績で受かる高校は、この辺にないと思うけど? そんな成績じゃ推薦も無理だよね? それともどこか、アテがあるの?」
「え……な、ない」
うちは、お母さんが頑張って働いてくれているおかげで、ものすごく貧乏というわけではないけれど、裕福でもない。
授業料が高い私立高校に行きたいなんて考えたこともないし、公立であっても、家から通える範囲以外の選択肢はあり得ない。
ニュースでは少子化問題が……なんて言っているから、皆勤賞で真面目に授業を受けていれば、どこかに入れるんじゃないか、なんてわたしは甘いことを考えていた。
「あのさ、お礼に勉強教えるから。それでいいよね?」
それ以外に、わたしが飛鷹くんを有効活用する方法はないと言わんばかりだ。
わたしとしてもそれ以外の活用方法を見出せない。
「……はい。オネガイシマス」