溺愛の価値、初恋の値段
◆
葉月さんが去り、空になったコーヒーカップを洗いながら、わたしは悶々と考えていた。
(途中までって……どこまでなんだろう……)
キス、はしただろう。
抱き合い、もしただろう。
服、も脱いだかもしれない。下着、も。
それから……。
「……やだ」
じわり、と涙が滲む。
(勝手に想像するんじゃなく、訊いて確かめるべきだよね……昔のことも、いまのことも)
充電していたスマートフォンを取り上げた。
(でも、聞くのが怖い……)
さっき、葉月さんには偉そうなことを言ったけれど、飛鷹くんが葉月さんよりわたしを選んでくれるなんて自信は、ない。
いきなり飛鷹くんに連絡する勇気はなくて、まずは雅に連絡することにした。
完徹後にそのまま昼まで勤務したらしく、いまごろは死んだように寝ているはずなので、メッセージで今日も無事であることを報告する。
京子ママと征二さんにも、アパートに戻っていることを伝えた。
そして、「イケメン(ロメオさん)」から、何度も着信があったので、思い切ってかけ直してみた。
『海音ちゃーんっ!』
通話になった瞬間叫ばれて、耳がキーンとなる。
『いま、どこにいるのっ!?』
「ご、ごめんなさい。心配かけて……いまは、自分のアパートにいます」
『ああ、よかった……音無さんが、うちにはいない、とある場所に置いてきたなんて言うから、空也が半狂乱で探し回ってて……』
「え」
(お、音無さん……飛鷹くんに容赦ない……)
『海音ちゃん、空也に、どこにいるかだけでも連絡してあげてくれないかな? 海音ちゃんがいなくなってから、ロクに寝てないし、食べてもいないし、仕事もまったく手につかない状態だから』
「ええっ!?」