溺愛の価値、初恋の値段






葉月さんが去り、空になったコーヒーカップを洗いながら、わたしは悶々と考えていた。

(途中までって……どこまでなんだろう……)

キス、はしただろう。
抱き合い、もしただろう。
服、も脱いだかもしれない。下着、も。

それから……。


「……やだ」


じわり、と涙が滲む。


(勝手に想像するんじゃなく、訊いて確かめるべきだよね……昔のことも、いまのことも)


充電していたスマートフォンを取り上げた。


(でも、聞くのが怖い……)


さっき、葉月さんには偉そうなことを言ったけれど、飛鷹くんが葉月さんよりわたしを選んでくれるなんて自信は、ない。

いきなり飛鷹くんに連絡する勇気はなくて、まずは雅に連絡することにした。

完徹後にそのまま昼まで勤務したらしく、いまごろは死んだように寝ているはずなので、メッセージで今日も無事であることを報告する。

京子ママと征二さんにも、アパートに戻っていることを伝えた。

そして、「イケメン(ロメオさん)」から、何度も着信があったので、思い切ってかけ直してみた。



『海音ちゃーんっ!』



通話になった瞬間叫ばれて、耳がキーンとなる。



『いま、どこにいるのっ!?』

「ご、ごめんなさい。心配かけて……いまは、自分のアパートにいます」

『ああ、よかった……音無さんが、うちにはいない、とある場所に置いてきたなんて言うから、空也が半狂乱で探し回ってて……』

「え」


(お、音無さん……飛鷹くんに容赦ない……)


『海音ちゃん、空也に、どこにいるかだけでも連絡してあげてくれないかな? 海音ちゃんがいなくなってから、ロクに寝てないし、食べてもいないし、仕事もまったく手につかない状態だから』

「ええっ!?」

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