溺愛の価値、初恋の値段
オムライス契約を継続する

「ど、どうしよう……」


廊下に貼り出された期末試験の順位表。

飛鷹くんの名前は、不動の一番。全教科百点満点。

そこからずーっと下って、九十九番目に自分の名前を発見したわたしは、何度も目を瞬き、頬をつねり、夢ではないことを確認した。


(本当に、百番以内に入っちゃった!)


あの日、オムライスを作る代わりに家庭教師をしてもらうという契約を飛鷹くんと結んでから、わたしは必死に勉強した。

彼に言われた範囲を一週間かけて自分で復習。金曜日に飛鷹くんがわたしの質問に答えながら、わからないところを重点的に教えてくれる、というスタイルで挑んだ二か月。


「馬鹿だと思っていたけど、本当に馬鹿なの?」

「日本語、理解できてる?」

「頭の中身入ってるか、振ってみてもいい?」

「真面目に聞く気あんの?」

「やる気でない? やる気なくてもやるんだよっ!」

「目を開けて寝るな! だからって、目を閉じて寝るな!」

などなど……。

彼のお叱りの言葉のバリエーションの豊富さには、びっくりだ。

とは言っても、今回奇跡が起きたのは飛鷹くんのおかげ。
ぜひともお礼を言いたい……ところだけれど、クラスがちがうし、学校では話しかけにくい。

ファンクラブの制裁は遠慮したい。


(そうだ! クリスマスはちょっと過ぎちゃうけど、冬休みに入るし、今度の金曜日はお礼を兼ねて、いつもよりちょっと豪華なお料理にしてみよう!)


頭の中でいろんなレシピを考えながら歩いているとちょうど廊下の向こうから飛鷹くんがやって来るのが見えた。

わたしは、声に出さずに口をパクパクさせて訴えた。


(飛鷹くん! わたし、九十九番だったよ!)


ひょいと眉を引き上げた飛鷹くんの視線は冷ややかだ。

おそらく、「俺が教えたんだから、当たり前だろう」と言っていると思われる。

どうしても顔がにやけてしまうのを手で隠しながらすれ違う一瞬、何かがポケットに押し込まれた。


「ごほうび」


空耳かと思いながらポケットに手を入れる。

出てきたのは、ひと口チョコレート。

慌てて振り返ってみたけれど、もう飛鷹くんの姿はない。


(ごほうびだってっ!)


嬉しくて、舞い上がりそうだ。

その日一日中、わたしは眉間にしわを寄せ、できるだけ険しい表情を維持しようと頑張った。

そうしないと、勝手ににやけてしまうから……。
< 17 / 175 >

この作品をシェア

pagetop