溺愛の価値、初恋の値段

「海音、なんで閉めるの? 開けて」


飛鷹くんに叱られて、もう一度、そろそろと開ける。

キラキラしている桜の花びらを象った石を持つ指輪。
その指輪の曲線に沿う形で造られた、シンプルなデザインのもう一つの指輪。

素材はプラチナと思われる、二つの指輪が並んで収められていた。


(しかも、これ……だ、ダイヤモンド……だよね?)


「ひ、飛鷹くん……これ」

「婚約はしないけど、指輪くらいあってもいいかと思って」

「で、でも、指輪……二つある……」

「もう一つは結婚指輪」


(け、結婚……指輪。ということは、結婚する……の?)


ニコニコキラキラ王子様スマイルを炸裂させている飛鷹くんに、何か言うなんて、畏れ多くてできない。


「…………」


わたしが沈黙していると、王子様スマイルを消し、ぎゅっと眉根を寄せる。


「……結婚、したくないの?」

「えっ! し、シタイデス……」

「ちっとも嬉しそうに見えないけど」

「う、嬉しいよっ!? ただ、びっくりして……」

「海音は、俺をどんな男だと思ってるの? 結婚するつもりがない相手とは、寝ないって言ったよね?」

「…………」

「ほら、左手出して」


言われるままに差し出した左手の薬指に、二つの指輪を嵌められる。


「うん……似合う」


満足そうに笑う飛鷹くんを見て、ふと疑問が湧いた。


(結婚指輪なら……飛鷹くんも、するのでは?)


「あの、飛鷹くんの指輪は……?」

「あるよ」

「……しないの?」

「してほしい?」

「……うん」

「じゃあ、海音が嵌めて」


差し出されたもう一つの白い入れものには、わたしのものより少し大きな指輪が収められている。

取り出して、内側の刻印を見ればちゃんとわたしたちの名前が入っている。

大きな手を取り、長い指にそっと嵌める。


「……いつ、用意したの?」


さすがに、いくら飛鷹くんでも、昨日の今日で用意できるようなものではないだろう。


「帰国して、海音に会ってすぐ。きっと、こうなるってわかってたから」


自分の手と飛鷹くんの手に収まる指輪を眺めていたら、なぜか涙があふれた。

掴んだ手を放したくなかったけれど、苦笑しながら諭された。


「海音。オムライス、冷めるよ?」

「う、うん……」


促され、ようやく二人で作ったオムライスを頬張る。
味はしなくても食べられるだろうと思っていたから、ひと口食べて、驚いた。


(トマト、ケチャップ……?)


急いでふた口目を。さらにもうひと口、食べる。


(トマトケチャップ。卵。隠し味のカレー粉。タマネギ、ニンジン、鶏肉、ごはん……)



それ以上、食べられなくなった。



「どうしたの? 海音」



「塩辛い……」



「え?」



「飛鷹くん、塩入れすぎだよ」



しばし、飛鷹くんは固まっていたけれど、すかさず言い返した。


「そんなはずないっ! ちゃんとレシピどおり作ったからっ! 塩辛いのは、海音が泣いてるせいでしょっ!?」

「飛鷹くんだって……塩辛いと思ってるくせに」

「思ってないっ! 美味しいしっ!」


絶対に、わたしと同じく塩辛いはずなのに、むきになって言い返す飛鷹くんは、なんだかかわいい。


「……嘘つき」

「なんなの? 海音。俺と一緒に作ったオムライス、美味しくないの?」















「……美味しい」










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