溺愛の価値、初恋の値段
初恋の値段
「なんて送ろうかな……」
時刻は、もうすぐ朝の七時。
スマートフォンを前にしたわたしは、飛鷹くんへ送るメッセージはどんなものがいいか悩んでいた。
今日は、飛鷹くんが第一志望としている超難関私立高校の入試日だ。
飛鷹くんなら、寝てても受かりそうな気がするけれど、励ましの言葉を贈りたい。
「あんまりおかしなこと書いて、集中力が切れても困るし……」
三十分ほど悩んだ末に、結局『おはよう、受験がんばってね!』という月並みな言葉を送った。
すぐに『もうちょっとマシなこと書いて』と返信が来た。
「マシなことって言われても……」
おしゃれな台詞や感動のひと言なんて、ぜんぜん思いつかない。
苦しまぎれに『受かったら、お祝いしよう。ごほうびあげるよ! なにが欲しい?』と送ってみた。
飛鷹くんからは、『考えておく』と素っ気ない返事。
決まったら教えてね、と打ったメッセージは既読にならず、もう受験会場へ向かったと思われる。
「飛鷹くんが、受かりますように」
一応、朝日に向かって拝んでおく。
服を着替えて朝ごはんを食べ終え、洗い物をしていたところにお母さんからメッセージが届いた。
『タンスにしまってある通帳を持って来て! 病院のATMでお金を下ろして、会計で払うから』
今日は、征二さんの車で、京子ママと一緒にF県へ行くことになっている。
検査入院を終えたお母さんを迎えに行くのだ。
『了―解!』と返事をし、さっそくタンスを探し始めたものの、あるはずの場所には預金通帳が見当たらない。
「通帳……通帳って……お母さん、どこぉ?」
あちこちの引き出しをかき回していると、玄関のチャイムが鳴った。
(え、もう京子ママたち来ちゃった?)
「ごめんなさい、まだ準備できてなくて……」
謝りながらドアを開ける。
明るい京子ママの笑顔に出会うはずが、そこにいたのは知らない女の人だった。
「あ、の……?」
お母さんと同じくらいの年齢のようで、きれいにお化粧をし、きちんとしたスーツを着ている。宝石をたくさん着けているわけではないけれど、どことなくお金持ちの匂いがした。
「あなたが、湊 海音さん?」
「は、い……そうです」
「わたしは空也の母親よ」
「え」