溺愛の価値、初恋の値段
よく見れば、全体的な顏の雰囲気が飛鷹くんと似ていた。


「あなたにお話があるの。入ってもいいかしら?」

「え、あ、はい、どうぞ」


中へ入ってもらい、慌てて散らばっていた服や通帳なんかをひとまとめにし、部屋の隅へ避ける。


「あの、お茶……紅茶でも……」

「結構よ。話はすぐに終わるから。あなた、空也と付き合ってるの?」

「……え?」

「空也は、毎週ここに来ていた。そうよね?」


それは、質問ではなく確認だった。
とっさに嘘を吐けるほど頭がよくないわたしは、正直に答えるしかなかった。


「は、はい。飛鷹くんは、わたしに勉強を教えてくれて……」

「二人きりで、いったいなんの勉強をしていたものやら。母親の仕事を思えば、男をたぶらかすのはお手のものでしょうけれど。あなた、まさか妊娠していないわよね?」


真っ赤な口紅を塗った唇から飛び出した言葉に、自分でも血の気が引くのがわかった。


(たぶらかすって……妊娠って……) 


頭がガンガンして、吐き気がしてくる。貧血を起こしそうだ。


「もしそうなら、正直に言って。中絶費用は、払ってあげるから」


赤い唇を歪めて笑う飛鷹くんのお母さんは、軽蔑と嘲りの入り混じった視線をわたしに浴びせた。


「わ、わたしたち……そんなこと、してませんっ!」

「あらそう? ふうん……てっきり、あの人と同じで女と見れば見境なく手をつけるのかと思ったら……」


あの人、というのは愛人がたくさんいる飛鷹くんのお父さんを指しているのだろう。

夫である人に裏切られ、飛鷹くんのお母さんはたくさん傷ついたのだろう。

でも、飛鷹くんは飛鷹くんで、彼のお父さんではない。

わたしは、こみ上げる怒りをそのままに、声を張り上げた。


「飛鷹くんは、無責任なことは絶対しませんっ!」


「実際にしたかどうかは問題じゃないの。あなたと付き合っていれば、そういう行為をしていると思われることが問題なのよ。空也には、あの子にふさわしい人間とだけ付き合ってほしいの。F県の私立学校へ行くんですって? それなら、お金が必要よね? 三百万あげるから、二度と空也に近づかないでちょうだい」

「そ、そんな、こと……」

「あなたの母親に直接言ってもいいのよ? あなたが進学する予定の高校にも。いろんな生徒とふしだらな行為に耽っていたって」

「そんな嘘、誰も信じるはずが……」

「そうかしら。人の噂って、怖いのよ?」

「…………」


何も答えられずにいるわたしに、飛鷹くんのお母さんは憐れむような目を向けた。


「自分でもわかっているでしょう? あなたと空也では、何もかもがちがいすぎて、うまくいくはずがないってこと。空也の受験が終わるまでに、よく考えるのね」

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