溺愛の価値、初恋の値段
「そう言えば、飛鷹くんがテレビに出てるの見たよ。すごいね? 会社を立ち上げるなんて。昔から、飛鷹くんは頭が良かったけど、一生懸命勉強したんだよね? きっと。海外の大学行きたかったんだもんね。むこうでの生活は楽しかった?」
冷淡にあしらわれてもしかたないと覚悟していたのに、飛鷹くんは意外にもきちんと答えてくれた。
「楽しかったよ。いろんな人がいたし、いろんなことを勉強できたし」
「そっか。よかったね! 仕事も楽しい?」
「ああ。好きなことしてるしね。湊さんは? 料理関係の仕事はしていないって、聞いたけど?」
彼が、わたしに勧めた将来の進路を憶えていてくれたことに、嬉しさと悲しさが入り混じった複雑な気持ちになる。
高校一年生までは、調理師になりたいと思っていた。
でもその夢は、いまでは叶えられないものになってしまった。
「うん……してない。普通の……事務の仕事をしてるよ」
失業したてということは、言わずにおいた。
プライドのせいというより、中学生の頃とは大きく変わってしまったわたしを知られたくなかった。
「どうして?」
「どうしてって……向いてないって、思ったから」
「料理するの、好きだったよね?」
「うん……でも」
声が震えてしまいそうで、一旦言葉を切る。
お腹に力を入れて、笑みを浮かべて、努めて明るい口調で言う。
「大人になったら、好きなだけじゃ、無理なこともあるって気づくでしょ? わたし、もともと頑張り屋じゃないし。高校の勉強も、わからないことがいっぱいあったし……くじけちゃった」
頑張れなかった理由はいろいろあるけれど、好きなだけじゃ不十分だったのは本当だ。好きを貫く強さが、わたしにはなかった。
飛鷹くんは、「ふうん」と言ったきり、しばらく黙っていたが、ぽつりと呟いた。
「もう一度、挑戦しようとは思わない?」
「え……?」
「チャンスは一度だけじゃない。もう一度、頑張ってみようとは思わない?」
「…………」
まっすぐにわたしを見る飛鷹くんと目が合った。