溺愛の価値、初恋の値段
「……思わないよ」
「どうして?」
納得するまで引き下がらない。
中学生の頃と変わらない飛鷹くんに、わたしは小さく笑ってしまった。
わたしの知っている飛鷹くんは、ニコニコキラキラ王子様ではなかったけれど、眩しい存在だった。なんでも知っている飛鷹くんは憧れで、わたしは彼に追いつきたいと思いながら、心のどこかで自分では追いつけないとわかっていた。
「……頑張れないから」
飛鷹くんが「なぜ」と言おうとするのに言葉を被せる。
「疲れちゃった……少し、寝ててもいい?」
「…………着いたら、起こすよ」
「ありがとう」
ぎゅっと目をつぶり、涙を押し戻す。
静かに息を吐き、慎重に息を吸い込む。
息をすることだけに意識を集中しているうちに、いつの間にか眠っていたようだ。
「起きて。着いたよ」