溺愛の価値、初恋の値段
「ノーンっ! 空也、説明してないのっ!? 信じられないっ! 僕と空也は、ビジネスパートナーなんだよ、海音ちゃん。空也がテレビとかラジオとか、美女と会談とか浮かれたことしてる間、僕はひとりでひたすら仕事……。カップラーメンとコンビニ弁当に明け暮れる毎日。いや、日本のカップラーメンとコンビニ弁当のクオリティの高さは世界一だと思うよ。でもね! でもね! 日本の家庭の味が食べたいんだよ! せっかく日本に来たのに、どうして僕が食べられる家庭の味は、自炊のイタリアンなの? おかしいよね? おかしいと思うよねっ!? ねっ!?」
イタリア人なら、イタリア人らしくイタリアンな家庭の味でいいのではと思ったけれど、コトナカレ主義のわたしは頷いた。頷いたついでに、褒めておいた。
「日本語、お上手ですね。ロメオさん」
「そう? ふふ、嬉しいなぁ。ナンパする時は、喋れないフリするんだけどね! そっちのほうがモテるから! 僕、時代劇が大好きで、日本語は〇〇〇〇で覚えたんだよ。コスプレもするんだ。写真見る?」
どうやら、仕事のし過ぎで壊れ気味と思われるロメオさんが、スマートフォンを取り出そうとしたのを飛鷹くんが押し止めた。
「海音は、退院したばかりだから休む必要がある。部屋に連れて行く」
「あ、そうだったね……ごめんね。つい、リアル海音ちゃんに興奮しちゃった。怪我は大丈夫?」
(リアルって、何のこと……?)
ロメオさんの言動には不審な点が多々あるけれど、変人ならばしかたないと深く追究するのはやめておいた。
「はい、大したことはないので……」
「大したことあるよ! 僕がつきっきりで看病する。代わりに、空也が仕事すれば? 僕のことは、ロメオって呼んでね? 海音って呼んでもいい?」
壊れかけていても、押しの強さは健在らしく、グイグイ来るロメオさんに顔が引きつる。
「あの、どう呼んでもらってもいいんですけれど、ほとんど初対面のロメオさんを呼び捨てにするのはちょっと……」
「大丈夫! 海音ちゃんのことはいつも二次元で見てたから、初対面って気がしなっ」
飛鷹くんがいきなりロメオさんを突き飛ばした。
「おまえ、馴れ馴れしいんだよっ!」
ロメオさんは、服やその他のもので埋まっていたソファーらしきものにダイブして、そのまま起き上がらない。
「ろ、ロメオさん、大丈夫ですか?」
念のため生存を確認しようとしたわたしに、飛鷹くんが冷たく言い放つ。
「寝てるだけだから」
その言葉どおり、「ぐおぉぉ」という地鳴りのようないびきが聞こえてきた。