溺愛の価値、初恋の値段
目を開ければ、ワイシャツ姿の飛鷹くんに覗き込まれていた。


「あ……げほっ……おかえり、なさい」


慌てて起き上がった拍子に咳が出る。


「具合悪いの?」

「だ……」


喋ろうとするたびに咳き込んでしまう。


「喋らなくていい。薬は飲んだ?」


夜の分はまだ飲んでいないと首を振ると水の入ったコップと薬を手渡される。


「とりあえず飲んで」


言われるままに何とか薬を呑み下す。

その間、飛鷹くんは誰かに電話していたけれど、日本語ではない言葉で会話していて、何を言っているのかわからなかった。


「あとで、ロメオがおかゆとか食べやすいもの買って来るから。大人しく寝てて」


そう言うなり、飛鷹くんはわたしを抱き上げた。


「わぁっ!」


まるで色気のない悲鳴を上げてしまい、再び激しく咳き込むことに。

人生初のお姫様抱っこを味わう間もなく、ベッドへ運ばれ、布団に押し込まれた。

仁王立ちで見下ろす飛鷹くんの姿は、雅を思わせる。


「治るまで、何もしなくていいって言ったよね? なんで言うこと聞けないの?」


汚い部屋に住みたくなかったから――とは言えず、咳をしてごまかす。


「海音はさ…………もしもし」


ぎゅっと眉根を寄せた飛鷹くんが何か言おうとした時、ちょうど彼のスマートフォンに電話がかかって来た。


「うん、そう…………うん……わかってる。俺のせい。うん……あとで、連絡する」


いまのうちに寝たフリをしようと目をつぶり、寝返りを打って背を向けた。

でも、そんなわたしの思惑を飛鷹くんは見逃さなかった。


「海音。寝たフリするの早すぎるから。ミネラルウォーター、枕元に置いておくよ。おかゆできたら起こす」

「…………」

< 59 / 175 >

この作品をシェア

pagetop