溺愛の価値、初恋の値段
寝たフリをするはずが、そのまま本当に寝てしまったらしい。


「海音……海音、起きて。ほら、おかゆ食べて」


再び揺り起こされたわたしはぼうっとしたまま、飛鷹くんが突きつけるレンゲから湯気の立つおかゆを食べた。

食欲は、まったくない。糊を食べているような感触に、三口で音を上げてしまった。


「もう、食べられない……」

「もうって、三口しか食べてないのに?」

「ごめんなさい……」


飛鷹くんは、溜息を吐いておかゆを下げるとわたしの熱を計り、解熱剤と水を押し付ける。


「明日になっても熱が下がっていなかったら、病院に連れて行くから」

「うん……」


また、雅に怒られるんだろうなぁと思いながら、薬を呑んで再び布団へ潜り込もうとしたら、逆に布団を引き剥がされた。


「寝るのは、着替えてから」

「えっ!」


さすがに目が覚めた。


「ほら、脱ぐよ」

「えっ! やっ! ち、ちょっ」


ぐいっとTシャツを捲り上げられて、慌てた。
下にはブラジャーしか着けていない。


「変なことはしないから……今日は」


(今日は……ってことは、いつかはするってことっ!?)


向かい合ってベッドに座る飛鷹くんを茫然と見つめている間に、背中に回った指がブラジャーのホックを外す。


「……っ!」


隠すものを失って、むき出しになったわたしの胸を見つめるまなざしに、震えた。

肌がチリチリと焦げつくような熱を感じる。


「海音……腕、伸ばして」


操り人形のように、命じられるまま腕を伸ばせば、長い指がブラジャーのストラップを摘まみ、するりと取り去る。

静かな部屋に、わたしの荒い呼吸の音だけが聞こえる。

視線だけで誘惑することができる人もいると言うけれど、まさにいまの飛鷹くんがそうだった。

張り詰めた空気に耐え切れなくなって微かに震えるわたしに、飛鷹くんが笑いかけた。


「海音は、パジャマ着ない派?」

「き、着る派っ!」


叫んだ途端、愛用しているワンピース型のパジャマを頭から着せられた。
袖に腕を通そうともがいているうちに、ズボンを引き下げられる。


「――っ!」


声にならない悲鳴を上げるわたしの肩を押してベッドに横たえた飛鷹くんは、膝のあたりで中途半端に留まっていたズボンを引き抜いた。


「パンツは? 穿く派?」

「は、穿く派っ!」


そろり、と膝に触れた手が上まで来ないよう、慌てて訴える。


「ふうん?」


ギシ、とベッドが軋み、飛鷹くんの身体が近づく気配を感じ、魚の抱き枕を引き寄せようとしたら、取り上げられた。

< 60 / 175 >

この作品をシェア

pagetop