溺愛の価値、初恋の値段
ラジオから流れる音楽。目玉焼きにはコショウが合うか、醤油が合うかという気楽な会話。自分以外の人が立てる食事の音。コーヒーの香り。

一度に押し寄せる色んな情報が強い刺激となって、途絶えていたシグナルを一時的によみがえらせたのかもしれない。

温かさしか感じないだろうと思って口に含んだミネストローネは、微かにトマトの味がした。


(……気の、せい?)


二人に気づかれないよう、驚きを押し隠し、もうひと口食べる。

はっきりとした味ではない。
でも、それは単なるお湯ではなかった。




久しぶりに感じる「味」だった。



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