溺愛の価値、初恋の値段
「どう? 美味しかった? 海音ちゃん」
久しぶりに感じる「味」を追いかけるように、次々とスープを口に運んでいたわたしに、ロメオさんが訊ねた。
「……はい」
気づけば、器は空になっていた。
「よかった! 僕のお祖母ちゃん直伝の味なんだ」
「何か、特別な調味料を使っているんですか?」
「特別なものは使っていないけれど、たっぷり愛が入ってるよ」
ニコニコ笑ってそう言ったロメオさんが、突然「うっ」と短くうめいてデーブルに顔を伏せた。
何かしたに違いない、彼の隣に座る飛鷹くんは、涼しい顔で黙々と食べている。
その姿に、懐かしい日々を思い出し、くすりと笑ってしまった。
(飛鷹くん、食べてる時は大人しいんだよね……)
わたしは、そんな飛鷹くんに釣られるようにして、用意された朝食をすっかり平らげた。
「きれいに食べてくれてありがとうね? 海音ちゃん。海音ちゃんが元気になるまでは、僕が料理を作るよ。日本食のレシピも教えてね?」
ロメオさんが、空になったわたしのお皿を見て、微笑む。
「でも、それはわたしの仕事で……」
「あくまでも、元気になるまでの間だけ。それに、料理するのはぜんぜん苦じゃないんだ。僕の父親は料理人で、小さい頃からしごかれて育ったんだよ。あ、お皿洗いは空也の担当ね。海音ちゃんはゆっくり休んでて! そうそう、今日は僕たち午後から出かけるけれど、夜には戻るからね? 晩ごはんも期待してね?」
昨日、無理をして迷惑をかけてしまったこともあり、わたしは二人が出かけるまで、大人しくスマートフォンで求人情報を検索して過ごした。
実態とは異なる、身ぎれいなイケメンに変身した二人が出かけるのを見送ってから、さっそく拭き掃除に取りかかる。
何もしなくていいと言われても、途中半端なままにしておくのは気が済まない。
昼食は、今朝の残りのミネストローネに飛鷹くんが切り刻んだフランスパンを入れて食べた。
やはり、いつものようにお湯に固形物が入っているとしか感じられず、朝のような奇跡は起きなかったものの、身体を動かしたせいか思ったよりもたくさん食べられた。
夜は、日が暮れる頃に帰って来たロメオさんが作ってくれた、菜の花のパスタ。
今度も、美味しいとは思えなかったけれど、菜の花の独特な味わいがほんのり感じられるような気がして、食べきるのはそれほど辛くなかった。
夕食の後は、本社のスタッフとミーティングがあると言う二人は部屋に籠り、わたしは雅に生存報告をしたあと、早々にベッドへ。
同居生活二日目の夜は、そうしてあっけないほど平穏無事に終わった。