溺愛の価値、初恋の値段
「あっ! た、食べちゃだめですっ! それ、お弁当用……」
「ちょっとくらい、いいでしょ? 足りなければ、僕も作るの手伝うよ」
「で、でもっ」
「ロメオ。手をつけるな」
飛鷹くんごと振り返る恰好で向き合ったロメオさんは、卵焼きを片手ににやりと笑う。
「どっちに?」
「両方だっ!」
「でも、美味しいものにはつい手が伸び……冗談だよ。いい加減、海音ちゃんを放してあげたら? 出かけられなくなるよ。空也」
「…………」
飛鷹くんは、大きく息を吐くとわたしから離れ、むっとした表情のままキッチンを出て行った。
解放されたわたしは、ロメオさんがさりげなく伸ばした手から唐揚げの載ったお皿を遠ざけ、プラスチック容器に素早く詰める。
油断していたら、全部食べられてしまいそうだ。
「それにしても、空也と海音ちゃんを見てると、僕は自分が汚れきっているように感じちゃうなぁ……」
あのバーでの手慣れた口説き方を見れば、ロメオさんが汚れきっているのは事実ではないかと思われる。
けれど、下手にツッコんで彼の恋愛遍歴を聞かされても対処に困る。
コトナカレ主義を貫くわたしは、社交辞令でこの話題を打ち切ることにした。
「そんなことないですよ。ロメオさんは優しいから、きっと色んなタイプの女性にモテるんでしょうね? 分け隔てなくどんな人ともお付き合いできるって、それだけ心が広くて柔軟だってことだと思います。二十六にもなって、男の人と付き合ったこともない、わたしのほうがどうかしているんです、きっと」
「え。本当に? いままで一人もいないの? ってことは…………海音ちゃんって、処女なの?」
「………」
自分でも、顔が真っ赤になるのがわかった。
処女なのは事実だけれど、面と向かって訊かれたことも宣言したこともない。
「わあ、ごめんっ! つい、いつものノリで……いや、でも、だからどうってことはないからね? うん、好みは人それぞれだし、空也もそのほうが嬉しいと……」
その時、来客を告げるチャイムの音がし、リビングにあるインターホンのモニターに雅の姿が映った。
『おはようございます、羽柴です。朝早くからすみません』
「あ! 海音ちゃんのお友だちだね? はいはーい! どうぞお入りください! 十五階まで来てね!」
ロメオさんが、わたしを差し置いて応答し、ロックを解除する。
五分と経たずに玄関のチャイムが鳴り、ロメオさんは私と一緒に玄関で雅を出迎えた。