溺愛の価値、初恋の値段
「いらっしゃーい! 僕は、ロメオ。空也のビジネスパートナーをしてるんだ。よろしくね。さ、どうぞ入って!」

「……お邪魔します」


やたらと愛想のいいロメオさんへ、あからさまに警戒のまなざしを向けた雅は、わたしを見るなりにっこり笑った。


「おはよう、海音! 服とかシャンプーとか、頼まれてたもの持って来たわよ。ずいぶん顔色もよくなったわね?」


雅が手にしていたエコバッグには、細々した生活用品と衣類が「とりあえず入れました!」状態で、ぐちゃぐちゃに詰め込まれていた。

天は、雅に頭脳と美貌の二物を与えたけれど、家事の才能は与えなかった。


「おはよう、雅。仕事が忙しいのに、迷惑かけてごめんね?」

「そうやって、また遠慮する! 単に頼まれたものを運んだだけでしょ。あれ? 海音……ちょっとふっくらしたんじゃない?」


リビングのソファーに座りかけた雅が、首を傾げる。


「そう? 毎日、ロメオさんが作ってくれる栄養たっぷりのお料理を食べていたからかな?」


自分では気づかないけれど、少し体重が増えたかもしれない。


「うん。柔らかくって、いい感じよ」


わたしの頬をやさしく摘まんだ雅は、ロメオさんに微笑んだ。


「海音にごはんを食べさせてくれて、ありがとうございます」

「…………」


雅の笑顔の威力は、飛鷹くんのそれに匹敵する。
どんな時でも口説き文句を忘れたことなどなさそうなロメオさんが、すっかり言葉を失っていた。

そんなロメオさんに、雅は笑顔で自己紹介までしてしまう。


「わたし、海音の高校時代からの友人の羽柴 雅です。N市の病院で研修医をしています。お名前をお伺いしても?」

「え、あ、バルトロメオ・ヴァイオです……あの…………」


茫然としていたロメオさんは、我に返るなりとんでもないことを口走った。




「僕と結婚してくださいっ!」




「は?」

「え?」


わたしと雅は顔を見合わせ、目だけで会話を交わす。


『いま、なんて言った?』

『結婚してくださいって言った』

『空耳?』

『二人とも聞いているなら、空耳じゃないと思う』

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