溺愛の価値、初恋の値段
正気を失っているにちがいないロメオさんに向き直った雅は、ひと言。


「無理」


ロメオさんは、この世の終わりのような顔をしたが、三秒で立ち直った。


「出会ったばかりだから、そう言うのも無理はないと思う。だから、まずは結婚してくれないかな? それから、ゆっくりと僕のことを知ってもらえれば……」

「なんで結婚が先なのよ? 普通はゆっくり知り合ってから結婚するものでしょうっ!?」


雅のもっともな言い分に、ロメオさんは真顔で「無理」と答えた。


「どこかの誰かに、横からかっさらわれるかもしれない恐怖に慄きながら、ゆっくり知り合うなんて、僕にはできないっ!」

「無理だと思うなら、やめればいいんじゃなくて?」

「簡単には、諦められないよ」

「あのね。わたしたち、会って五分も経ってないわよね?」

「時間の長さは関係ない。運命の出会いの前では、人は無力だから!」

「あ、そう。わたし、運命は信じない性質なの」

「雅が信じなくても、僕は信じる」

「だ・か・らっ……!」


苛立ちも最高潮に達した雅は眉を吊り上げ、何かを言おうとして沈黙した。



ロメオさんが、長い腕を伸ばして雅を捕獲し、いきなりキスしたからだ。



最初は抵抗していた雅だけれど、次第にその抵抗は弱々しいものになり……。


(ひ、人がキスしてるところを目の前で見るって……なかなかない体験かも)


雅は、中学生から女子校育ち。大学も女子大で、正真正銘純粋培養のお嬢様だ。

しかも、本人は認めたがらないけれど、かなりのファザコン。羽柴先生を悲しませるようなことは、絶対にしない。

結婚を前提のお付き合い以外はしないと、言い寄る男性を片っ端からはねつけ、デートもしたことがないはずだ。

つまり、もしかしたらこれがファーストキスかもしれず……。


「ほらね? こんなに相性ぴったりなんだから、運命だよね?」


「…………」


濃厚なキスを終えたロメオさんは、満足げに微笑んでいる。

そんなロメオさんの頬に、新鮮な空気を吸ってようやく我に返った雅の平手打ちが炸裂した。



「この、変態っ!」



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