溺愛の価値、初恋の値段
「イチミリでもこっちに寄って来たら、訴えるから!」
雅の牽制に、ロメオさんは「何もしない」と両手を挙げる。
飛鷹くんは、わたしを抱きしめようとはしなかったけれど、手を握られた。
振り払うと「なぜ」と訊かれそうで、そのままにした。
「海音ちゃんと雅は、高校が一緒だったんだよね? 二人はどんな高校生だったの?」
ロメオさんの質問に、雅はツンとして答える。
「あんたと違って、わたしたちは清らかで真面目な高校生だったわよ。女子校だったし」
「僕だって、大学に入るまでは清らかで真面目だったよ?」
「初対面の相手にいきなりキスしたくせに。嘘でしょ」
雅は、ロメオさんの言うことは、ひと言たりとも信用しないと決めているようだ。
「嘘じゃないよ! そうだよね? 空也」
ロメオさんに証言を求められた飛鷹くんは、目をつぶったまま面倒くさそうに答えた。
「羽柴さん。ロメオは、十三歳で大学に入学したんだ。だから、大学生になる前は清らかな生活をしていたというのは、嘘じゃないと思うよ」
「十三歳って……飛び級したってこと?」
「そう。俺が入学した時には、助教授をしていた。もうすぐ教授になれたのに、なぜか俺と友人たちが立ち上げた会社に転がり込んで来たんだ。ちなみに、老けて見えるけど俺たちより年下だから」
「いくつなんですか? ロメオさん……」
「二十歳だよ」
「これで二十歳? 老けすぎでしょう?」
雅の感想に、まったく同感だ。
てっきりロメオさんは三十代だと思っていた。
十三歳で大学に入学できるほど頭がいいと、見た目も老けてしまうのだろうか。
「海音ちゃん。僕が老けているんじゃなくて、日本人が童顔なだけ。年の差なんて、僕は気にしないからね? 雅」
にっこり笑うロメオさんを睨んで、雅は叫んだ。
「わたしは気にするわよっ! 年上が趣味なの。年下なんて、あり得ないわ」
ファザコンの雅は、昔からオジサマ好きだ。彼女が好きな芸能人は、ほぼ昭和生まれ。皺がない顔には魅力を感じないと常々言っている。
「でも、夫は若いほうが色々とお得だよ? ベッドでいくらでも妻を満足させられる」
雅は、にやりと笑うロメオさんを真っ赤な顔でひと睨みし、再び横になると目をつぶった。
飛鷹くんはすでに寝息を立てている。
雅の眉間の皺もほどなくして消え、あどけない寝顔へと変わった。
眠れずにいるのは、飛鷹くんが隣にいるせいでドキドキしてしまうわたしと、雅の寝顔をこっそりスマートフォンで撮影しているロメオさんだけだ。